スマホに入れっぱなしの写真
鵜飼 この20年ではスマホが普及し、学習の仕方から暮らしまで大きく変化しました。電車の中で本を読む人はまれになり、多くはスマホをいじっています。
養老 脳をひとつのことに集中して使う習慣が失われ、スマホで広く浅く使うことのほうに慣れてしまったのでしょう。そのことで最近気になったのは、虫展に来る人来る人、「写真撮っていいですか」って聞き、やたら撮っていること。
あれ、どうするんだろう。記録のつもりだとしても、撮りっぱなしじゃ記録として使えない。子どもたちには、標本づくりでは必ず、いつどこで誰が捕ったかを記したラベルをつけるよう教えている。これがないと標本とはいえない。撮りっぱなしの写真もこれと同じです。
鵜飼 多くの場合は、スマホに写真を入れっぱなしでしょうね。
養老 あったことはしょうがない。だから記憶を残す。これがドキュメントを大切にすることだけど、終戦のとき、日本軍は軍関係の書類・記録を廃棄、焼却したでしょう。戦後の日本ではアーカイブはいちおうあるけれど、あまり整理されていない。
ことほどさように日本人は記録を大事にしない。写真を撮りまくったって、どうせほとんど見やしない。記録を大事にしないから、やたらと撮影する。そこに現代の盲点があるように感じる。
それは、世界にものが存在する実体感が希薄になっていることとも関係している。