10年前と比べると……

では、再開発で建設されるタワーマンションの販売価格は、10年前と比べてどの程度、上昇しているのでしょうか。

中央区月島駅周辺で10年ほど前に再開発に伴い建設されたタワーマンションを比較してみました(図表2)。

<『2030―2040年 日本の土地と住宅』より>

2015年に竣工したタワーマンションAは販売当時、坪単価の平均が326万円(70m2換算で約6900万円)でしたが、2026年竣工予定のタワーマンションBは坪697万円(70m2換算で1億4760万円)と2.1倍になっていました。

タワーマンションAは2024年6月時点の中古マンション相場で坪658万円(70m2換算で1億3930万円)と10年前から2倍に値上がりしているわけですが、新築のタワーマンションBはそれより6%ほど高い価格帯となっています。

周辺の中古マンション価格が高騰すればするほど、同じエリアの新築マンションで設定される価格も上昇していく可能性があると考えられます。

近年、各地で旺盛に再開発が行われ、そこで建設されたタワーマンションによって大量の住宅が供給されています。

しかし、平均価格が1億円以上といった状況では、月々必要になるマンションの維持管理費や修繕積立金の負担、日々の生活費、子どもへの教育費などのことを考えると、世帯年収で1500万円程度あるようなパワーカップルでも躊躇する価格帯になっていることがわかります。

土地や住宅の価格が上昇しても、年収が増えていけば、大きな影響はでません。しかし、図表3のとおり、2013年=100としてみると、2020年から可処分所得は上昇しているものの、マンションの不動産価格指数(5)と可処分所得の乖離がますます大きくなっていることがわかります。

<『2030―2040年 日本の土地と住宅』より>

つまり、マンションの価格上昇に、可処分所得が全く追いついていないどころか、ますます状況が深刻になっているのです。

特に、東京などの大都市では、住居費・食費といった基礎支出が他の道府県より高いため、中央世帯(都道府県ごとに可処分所得が上位40~60%の世帯)では、そこまで余裕のある世帯が多いとは考えられません。

現に、国土交通省の資料(6)によると、東京都の中央世帯の基礎支出は47都道府県で最も高く、可処分所得から基礎支出を差し引いた金額は全国で第42位となっています。

2021年の国立社会保障・人口問題研究所の調査(7)によると、「理想の数の子どもを持たない理由」のうち「家が狭いから」と回答した若い世帯(妻の年齢35歳未満)が21.4%という結果となっています。少子化を少しでも食い止めようというのなら、若い世帯が住めなくなっている都市づくりをこのまま進めてよいのか?という根本的な問題にも目をむける必要があります。

●注
(1)不動産経済研究所「首都圏 新築分譲マンション市場動向 2023年(年間のまとめ)」
(2)「スムラボ」ウェブサイト https://www.sumu-lab.com/archives/72257/
(3)Impress Watch「港区最大の超高級マンション「三田ガーデンヒルズ」」(2023年9月22日付)https://www.watch.impress.co.jp/docs/news/1533182.html
(4)不動産流通研究所ウェブサイト「大山の再開発マンション、17日に1期登録開始」(2024年6月12日)https://www.re-port.net/article/news/0000075997/、及び、日本不動産野球連盟RBA野球大会ウェブサイト「準都心部も青天井相場へ 住友不「板橋大山」坪550万円 「池袋」坪800万円近く」(2024年6月12日)https://www.rbayakyu.jp/rbay-kodawari/item/7589-550-800
(5)「不動産価格指数」とは、取引価格の価値を異なる時点間で比較できるように、国土交通省が年間約30万件の不動産の取引価格情報をもとに、ヘドニック法により立地・物件の特性・季節などの影響を取り除いた不動産価格の動向を指数化したものである。
(6)国土交通省 国土審議会計画推進部会 国土の長期展望専門委員会(第13回)資料2-4「地方の豊かさについて」(2021年3月8日)
(7) 厚生労働省「令和5年(2023)人口動態統計月報年計(概数)の概況」(2024年6月)

※本稿は、『2030―2040年 日本の土地と住宅』(中央公論新社)の一部を再編集したものです。


2030―2040年 日本の土地と住宅』(著:野澤千絵/中央公論新社)

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