皇室ものは書くのも読むのも大好き

―――今回の作品が「皇室もの」だったというのも、林さんのモチベーションを上げる一因だったという。

皇室ものは書くのも読むのも大好きです。今回、すいすい書けたのも大好きなテーマだったからかもしれません。

昔から皇室は好きでした。婦人公論の読者の方々と同じです(笑)。私たちの年代だと、子どものころの「ミッチーブーム」も一因ですね。あんなに美しい方がこの世に存在するなんて!と感動したものです。

今回書き足した「母より」という作品では、秩父宮妃勢津子さまを主人公にしました。あの美智子妃をいじめた怖いおばさまというイメージもあったのですが、実はとても聡明で素晴らしい方。ご夫婦仲もとてもよかったんです。「皇后は闘うことにした」のヒロイン、節子が今度は母としてどうふるまうのか? 秩父宮殿下のすばらしさ、そして勢津子妃の魅力も併せて、たくさんの方々に知っていただきたいです。

本来は、皇室ものはノンフィクションが得意とするところなんだと思います。でも、私はそれを小説にして、ハードルを下げて多くの人に読んでいただきたいんです。当時の皇室の方々は雲の上の存在なので、神秘的でベールに包まれていて、よけい想像力をかきたてられますよね。でも、やんごとなき方々の孤独も身につまされます。ノンフィクションには嘘は書けないけれど、小説なら史実に基づいていくらでも膨らますことができる。とはいえ、どこを書けば面白いかというのをピックするのは作家の勘であり、広げていくのは腕の見せ所です。今回の作品も「読み物」として楽しんくださるとうれしいですね。

そういえば、今回は皇室ものだったから「登場人物の名前を考える」という作業はありませんでしたが、いつもはけっこう悩みます。『婦人公論』に投稿していらっしゃる方のお名前からヒントをいただくこともけっこうありましたよ。
自分の小説の中で、一番好きな主人公ですか…?難しいですが、けっこう意地悪な女性が好きなので、『不機嫌な果実』のヒロインの「麻也子」とか、その名前を娘につけようとしたら、夫から「どうせろくでもない小説なんだろうからイヤだ」と言われたことがありましたが…。(笑)

結婚6年目の妻の復讐を描いてドラマ化でも話題になった『不機嫌な果実』(著:林真理子/文藝春秋)

でも、これほど皇族が大好きな私ですが、戦後の皇室にはほとんど興味がありません。いろいろなことがわかりすぎてしまっているので、作家としての想像力をかきたてられないのかもしれません。

情報化社会のせいで今の皇族の方々は不自由を強いられ、ストレスがたまる一方ですよね。私たちみたいに居酒屋で飲んだくれて憂さ晴らしするわけにもいかないし、狭いところから出られないのはお気の毒としかいいようがない。そしてこのところのSNSなどを使った様々なバッシングは、不愉快なだけ。誰かを悪役に仕立てるようなやり方には、憤懣やるかたない気持ちでいっぱいです。そんな中で愛子さまのご様子を拝見すると心がなごみます。本当に気品にあふれていて、おごそかな雰囲気をまとっていらっしゃる。皇室の底力を見せつけられているような気がいたします。

昔の皇族の方々がどのように暮らしていたのか、ぜひ小説の世界で覗き見て楽しんでいただければ幸いです。

林真理子さん