息の合ったトーク。客席は終始笑いが絶えなかった

木野 それ以降、推しはいないの?

渡辺 いない。ジュリー(沢田研二さん)は小学生の頃からずっと好きで、ジュリーについて考えることは私にとって日常でしょ。「いまハマってる」みたいなことじゃないから。

木野 じゃあ、えりが打ち込んでいるものは演劇だけってことなのかな。

渡辺 そもそも私、11月10日に母ちゃんを亡くしたばかりなんですよ。14日がお葬式、15日が舞台『鯨よ! 私の手に乗れ』の稽古初日で、泣く暇もなかった。稽古で気がまぎれるかと思ったんだけど、なにせ設定が介護施設の話じゃない。火葬場で「母ちゃんのこと、焼かないで!」と思った記憶が蘇ったりして、稽古しながら毎日号泣ですよ。

木野 わかるよ。

渡辺 母ちゃんは私が演劇をやることに反対でね。それでも上京する日、「これからは朝、起こしてあげられなくなるから」って上野でセイコーの5000円の目覚まし時計を買ってくれたんですよ。いまも家にあります。木野さん、私69歳で孤児になっちゃった。夫も子どももいないし、マンションで冷たくなっていても誰も気づかないと思う。どうしよう。

木野 年を取った独り者はみんなそう。私だって、一緒よ。

渡辺 うちは部屋が整理されていないから、誰かが心配してきてくれたとしても、それが気がかりなの。

木野 だから掃除しようよ。もう70歳になるんだから(笑)。朝、植木に水をやったあと、清々しい気持ちのまま部屋に入れば、自然ときれいにしようって思うようになるわよ。