ステレオタイプは「貴重な手がかり」

こうした問題意識をもって、私は熟練したELFユーザーにコミュニケーションの文化にまつわる経験談を聞いてきた。その結果、ステレオタイプにはそれなりの理由や背景があり、自分のコミュニケーション文化を知り、相手との違いを知るための貴重な手がかりだと、考えるようになった。

私たちは、コミュニケーションの文化に違いがあることに気づきにくく、自分の文化の基準で他人を判断しがちだ。だから、自国のステレオタイプに照らし合わせて自分のコミュニケーション文化を把握しておくと、誤解を防ぐのに役立つ。

たとえば、私たちが外国人と英語で話すとき、前述した日本文化のステレオタイプを事前に知っていると役立つ。日本では否定的な意見を避ける傾向があるというステレオタイプを知っていれば、普段日本語では意見を言わない場面でも思い切って発言したほうがいいのではないか、と思うことができる。

同様に、英語で話す相手のコミュニケーション文化を察するには、その人の出身国のステレオタイプをヒントにできる。日本文化のステレオタイプを予(あらかじ)め知っている外国人は、日本人が黙りがちでも、この人は意見がないのではなく、意見はあるが言わないだけかもしれない、と考えることができる。

ステレオタイプを雑な決めつけに使わず、偏見の言い訳にしないように自ら戒めつつ、文化の違いを探る出発点としてステレオタイプを参考にする。その上で相手を丁寧に観察することが、異文化理解の現実的な作戦であると思うようになった。