ELFと文化
もうひとつの常識「英語のコミュニケーションは、英米文化にあわせる」という考えは、さまざまな国から来る多様な文化をもつ人々の共通語であるELFには馴染(なじ)まない。
日本人とインドネシア人とエジプト人がELFのコミュニケーションをしている場で、アメリカ人がいないのにみんなでアメリカ文化を模倣する必要はないだろう。では、ELFの多様性の中で、効果的なコミュニケーション文化をどう見つけたらいいだろうか?
実は、この問いに対する万能の正解はない。ELF発想は、アメリカやイギリスの母語をモデルにしないので、これらの文化を規範にしない。しかし、ELFに文化的な要素がないわけでも、文化的に中立なのでもない。むしろ、参加者のもつ文化が、その場の状況にあわせて、複雑で流動的な影響を与えるのがELFの特徴である(4)。
ただ、この説明は抽象的すぎる。その場にいる人々の文化がすべて影響するなら、自分の文化と他のさまざまな文化が混在する中で、どう最善のコミュニケーションの方法を見つけるといいか具体的な方法を知りたい。
研究者の間で定説はないが、現場の観察やELFユーザーの経験をもとに判断すると、ELFがネイティブの文化を規範にしないとしても、実際にはアメリカやイギリスの英語圏の文化が強く投影されることがわかる。これは、英語を勉強する際に、多くの人が英語圏の文化をいっしょに学ぶからだろう。
私がELFコミュニケーションをする際には、まず、過度に日本的な文化で判断しないように心がけている。代わりに、大枠としてはアメリカやイギリスのコミュニケーションスタイルを参照しつつ、実際の会話の中でその場の状況や相手を観察し、自分のコミュニケーションを調節していく。
ELFにおけるコミュニケーション文化には決まった万能のスタイルはなく、その都度、その場に応じて変化する。私たちは、多様な文化の違いを敏感に感じ、英語表現に反映することを作戦としたい。