心は満たされない
でも、正直だんだん疲れてきた。
家賃は高いのに、部屋はすごく狭くて、収納も少ない。狭い空間はすぐに荷物でいっぱいになり、常に窮屈だ。外に出ても、見渡す限り建物が詰め込まれていて、自然がない。緑がある公園があるじゃない、と言うけれど、迫力のある山々に囲まれて育った身からすると、東京の自然はおまけ程度の、張りぼてのようなエセ自然、という感じ。
田舎ではマストの引っ越しの挨拶はむしろするなと言われていて、隣の住人の名前も知らない。田舎のねちっこい閉鎖的なコミュニティはうんざりだけど、東京はいくらなんでもドライ過ぎる。急遽数週間家を空けることになった時、置き配の荷物が玄関前に置きっぱなしだったけど、大家さんからも管理会社からも連絡はなかった。フリーランスの私は、孤独死したら腐乱死体まっしぐらだ。
物価は田舎とそこまで変わらないけど、ケーキやパンはやっぱり東京価格。地元で400円くらいで買ったケーキは、生クリームが澄んだ味わいで、イチゴもとても味が濃かった。東京で駅の乗り換えの時に買った670円のケーキは、生クリームもイチゴもなんとも味が薄かった。野菜はどれも小ぶりで、肉や魚はなんだか新鮮さにかける気がする。
東京は、あらゆる「最新」「最先端」が揃い、ひしめき合っている。次々に新しい店ができ、新しい流行が生まれていく。それをキャッチしないと、東京を謳歌出来ていない気になる。別に損していないのに、損をした気分になる。いつしかトレンドを追わないと、というちょっとした強迫観念になっている。際限なく物欲を刺激され、結構なお金をはたいて何かを買っても、思ったほど心は満たされない。つねに渇望感がある。
地元は、車で20分かけて街に出ないとスーパーもコンビニもない。だから、買うものをあらかじめリストアップして、まとめ買いする。衝動的に欲しいものができても、自販機すらないのだから買いに行けない。でも、その不自由さが心地よい。
東京にいれば徒歩5分圏内にコンビニが3つはある。だから、ついつい何か買ってしまうのだ。自然と浪費してしまう。