名刺の効果
― なかなか、そういうシンプルな発想って、思いつかないもんですね。その名刺は自前ですか?
K ええ、自分で作ります。印刷屋に持ち込んで頼んで。印刷っていうものに敏感だったのは、漫画を描いていたからですね。
― たしかに。印刷っていう発想は前座さんにないですもんね。当時、名刺ってそんなに高いもんじゃなかったんですか? まあ、仕事につながれば安いもんですかね。
K そうですね。いくらだったか忘れたけど、大した金額ではないです。
― 他に、そういう名刺を持っている前座はいましたか?
K いません。
― そうですよね。珍しいと思います。
K ちょっとしたことでね。思いつきです。
― ちょっとしたことっていうのが一番難しいんですよ。で、その名刺の効果はありましたか?
K 撒きまくってすぐにどうっていうことはないけども、「この前、伊豆にご一緒した者なんですけど、うちの初孫のお節句をやる時、個人の家で落語をやってもらえますか?」っていうような連絡がありました。それで着替えてね、行きました。
― 効果、あったんですね! いわゆる自宅寄席ですね。
※本稿は、『木久扇の昭和芸能史』(草思社)の一部を再編集したものです。
『木久扇の昭和芸能史』(著:林家木久扇、林家たけ平/草思社)
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