父のハイテンションに私は疲れる

翌日の夕方ホームに行くと、父は1週間ぶりにデイサービスに行き、お風呂にも入ってすっきりした様子だった。大相撲秋場所をやっているから、テレビ観戦が暇つぶしになるし、プロ野球は優勝戦線真っただ中で、寝るまで楽しい時間が続く。

父の新聞のテレビ欄に、見たいテレビに〇をつけてあるのを発見すると、チェックする能力と気力が失われていないことにほっとする。

「パパ、最近すごくしっかりしているね」

褒めたつもりだったのに、父は気を悪くしたらしい。

「俺は昔からしっかりしている」

子育てなら褒めて育てるほうが能力を伸ばすと言われているが、気まぐれな年寄りは扱い辛い。認知症になってから短期記憶が弱くなっているのに、父はそれを自覚していない。例えばこんなふうだ。

私が「昨日のケーキ、おいしかったね」というと、一瞬遠くを見る目をして戸惑った顔をしてから、取り繕う。

「男は過去を振り返らない。昨日のことは忘れた」

昨日私はせっかく高級なケーキを買ってきたのに、忘れられたのはなんとなく寂しい。

「ハッピバースデーツーユーって歌ってくれて、一緒に食べたでしょ」

「え? おまえ誕生日だったのか?」

「そうだよ」

「いくつになったんだ?」

「68歳」

「あと2年で古希か。俺も歳を取るわけだ……」

ユーモアと認知症の取り繕い症状が入り乱れ、私は父の本当の姿がわからなくなり、最近対応にすごく疲れを感じている。