電話魔の症状が始まった

大相撲秋場所が終わり、プロ野球のシーズンが終わると、父はたちまち私への依存度が高くなってきた。できる限り老人ホームに行って、一日平均1時間半位話し相手をしているのだが、仕事で行けないと、頻繁に電話がかかってくる。

人は誰でも無視されるのが一番辛いと私は思っているので、なるべく電話をとる。イラッとした時は深呼吸してから、できるだけ優しい声で話す。

「どうしたの?」

「どうもしない。暇だからかけた。おまえも暇だから電話に出たんじゃないのか?」

父にそう言われると、カッとしてしまう。

「あのね、私は暇ではありません。今も原稿を書いていました。締め切りで、時間に追われているんです!」

「じゃあ切るわ」

私が構ってくれないことにいじけた父は、ブツッと電話を切った。

1時間後、また父から電話がかかってきた。今度こそ冷静に受け答えしようと、私は淡々としゃべった。

イメージ(写真提供:Photo AC)

「何かあったの?」

「いや、何もすることないからかけた」

「私は仕事をしているんだよ。それでも、96歳の親から電話がかかってきたら、何かあったのではないかと気になって電話に出てしまうでしょ」

父は絶妙な切り返しをしてきた。

「バカだな。心臓か脳が急に悪くなったら電話できないだろう。電話するのは元気な証拠だ」

ああ言えばこう言う父に怒りが爆発した。

「パパ、今日は、今の電話で10回目だよ! 用事がないなら電話しないで!」

父は悲しそうな声で言った。

「そんなに迷惑なら、もうしない」

親に冷たくした後味の悪さが、一日中私の胸に残った。