阿川佐和子さんが『婦人公論』で好評連載中のエッセイ「見上げれば三日月」。紙袋をセカンドバッグとして愛用していた時代もあったが、最近は布袋を持つようになったという阿川さん。その中身とは――。
※本記事は『婦人公論』2024年12月号に掲載されたものです
※本記事は『婦人公論』2024年12月号に掲載されたものです
仕事先で会った方に声をかけられた。
「今日は紙袋をお持ちじゃないんですね」
一瞬、何のことかと思ったが、すぐに思い出した。紙袋をセカンドバッグとして愛用していた時代がある。そのことをだいぶ以前エッセイに書いた。きっとその方は、私のエッセイを読んで、「いつも紙袋を持って移動する人」だと思い、そのバタバタした姿を想像していらしたらしい。
実際、私はいつも紙袋を片手にぶら下げて、もういっぽうの手でバッグを抱え、時間に追われ、慌ただしく早足で歩いていた。だから待ち合わせをした相手は、私の姿がまだ見えずとも、遠くから「バサバサ、バタバタ」という紙袋と服が擦れる騒々しい音が聞こえるだけで、「あ、アガワが来た」とわかるという。
「なんでわかるんですか?」
訊ねると、
「だってあんな騒々しい音を立てながらやってくるのはアガワさんだけだもん」
こうして阿川佐和子は、「阿川さわぐこ」と揶揄された。