ことほどさようにハンドバッグはいつも満杯だ。しかし持ち歩かねばならない荷物は他にもある。

対談用の資料の束や書籍、出先で写真撮影をすることになったとき、髪の毛や顔を整えるためのヘアブラシと化粧道具、目的地への地図や時間を記したコピー紙、脱水症状にならないためのペットボトルのお茶か水、先方へお持ちする土産など、とうていハンドバッグには入りきらない。だからハンドバッグに加えて布袋が必要となるのである。

「なんでそんなにいっぱい荷物を持ってなきゃいけないの?」

家人にいつも呆れられる。そのたびに、

「しょうがないでしょ。必要なものばかりなんだから!」

とキンキン声で返す日のなんと頻繁であることか。

しかし大きな声じゃ言えないが、実のところ、バッグの中には必要でないものもたくさん潜んでいる。

たとえば、なぜ入れたかわからない割り箸、いつ乗ったか覚えていない航空券の半券、カラカラに乾いたウエットティッシュ、ゴルフのミニ鉛筆十数本、ボールペンが数本、去年の日付のタクシー領収書、未整理のまま放置された名刺の束、買い物リストが記されたメモ用紙(すでに買い物は済ませたあとのもの)、メモ帳、ずっと前にラウンドしたときのゴルフのスコアカードなどなど、などなど。

ときどき、入れたはずの必要なものを捜すため、バッグに手と頭を突っ込んで大捜索する。そういうときに悟るのである。なんという不用物の巣窟であったかということを。

バッグを制する者は人生を制する。バッグを制することのできない者は、生涯、重荷を背負って生きるであろう。……私のこと?


最新刊『レシピの役には立ちません』が好評発売中

このまま食べたら危険!? 読んで美味しく、(作って)食べても旨い極上の料理エッセイ誕生!

珍しく父に褒められるからと、台所仕事をするようになって60年余。ケチだけど旨いもの大好きなアガワが立ち向かう、新たな食材、怪しい食材、そして腐りそうとおぼしき食材……。

料理に倦んだひとが今日もまた台所に立ち向かう元気がふつふつ湧いてくる名エッセイ誕生! でも、ちゃんとした料理人はあまり真似しないでね。


人気連載エッセイの書籍化『ないものねだるな』発売中!

コロナ禍で激変した生活、母亡き後の実家の片づけ、忍び寄る老化現象…なんのこれしき!奮闘の日々。読むと気持ちが楽になる、アガワ流「あるもので乗り越える」人生のコツ。