父と祖父に頭を下げてお金を借り、店舗の賃貸契約を済ませた1992年3月、ついにアキダイをオープンしました。ところが大変だったのはここから。初日と2日目は特売の折り込みチラシの効果もあって大勢の人が来てくれたものの、3日目になると客足が完全にストップ。待てど暮らせど、店の前を人っ子ひとり通らないのです。

店の前がバス通りだったことも精神的負担になりました。バスに乗っている人が皆、「あそこはすぐに潰れるね」と言っているように思えたのです。修業時代には「10年に1人の八百屋の天才」などとチヤホヤされていた僕ですが、この頃は「なんでお店なんて始めちゃったんだろう」と、後ろ向きなことばかり考えていました。

とはいえ数日で店を畳んでしまっては、父や祖父、そして「頑張れよ!」と送り出してくれた先輩たちに面目が立ちません。

そこで僕は「1年後に店を畳む。その代わり1年間は、これだけ頑張ったけどダメでしたと胸を張って言えるくらい全力で働く」と決め、新たな気持ちで店に立つことにしたのです。お客さんがいなくても元気に声を出し、ときには「大根1本10円」と書いたボードを掲げながら、店の前を通るバスを追いかけました。

最初に反応してくれたのは、バスに乗っているおばあちゃんたち。「乗り放題のシルバーパスを持っているから」と、途中下車して店に来てくれたのです。聞けば、値段の安さが前から気になっていたのだそう。それ以降、「品揃えがいい」「説明が詳しい」と、口コミが口コミを呼ぶ形でお客さんが増えていきました。

女性は特に、地域にさまざまな人間関係を築いています。でも本当にいいものじゃないと、人にすすめてくれません。だからこそ、何ごとも誠意をもって対応することの大切さを学び、僕の接客も変わっていきました。

お客さんが来てくれたら全力で歓迎する。カゴに商品が1つ入るたびに、心の中で「僕を認めてくれてありがとうございます」と感謝する。

そんなことを続けるうちに、1日10万円もいかなかった売り上げが、半年経つ頃には80万円を超えるように。店を畳む計画も、いつしか頭の中から消えていました。