「不機嫌な顔になっていると思ったら、気持ちを切り替え、口角を上げる。小さいことだけど、大事なことだと思っています」

どんなときもお互いさまの精神で

一方で手痛い気づきもありました。以前勤めていた八百屋さんはすごく繁盛している店だったため、僕は市場の売り子さんに対して「X円に負けるなら買うよ」と強気な態度で接していたのです。

ところが、馴染みの売り子さんに当時と同じノリで「X円に負けてよ」と持ちかけたところ、「今のアキちゃんに負ける理由なんて何もないんだよ」と突っぱねられてしまった。

青果の世界には「悩み」と「もがき」という隠語があります。悩みは、同じ品物が大量にあって卸売業者が困っている状態。もがきは、品薄により小売業者が品物を取り合っている状態を言います。

市場でものを言うのは、お金ではなく売り子さんとの関係性。悩みのときに助けてあげれば、相手ももがきのときに助けてくれる。お互いさまの心で、信頼関係を築くことが大事なのです。

だから自分の都合ばかり押し付けていては、売り子さんとの関係を損ねてしまいます。あのとき僕は、店を構えたばかりで何の信頼もない自分がいかにちっぽけな存在か、そして修業時代の自分がどれほど傲慢だったか、深く反省させられました。