「今でこそ〈名物社長〉と言われ、テレビの情報番組で生鮮食品の市況についてコメントしている僕ですが、子どもの頃は人と話すのが何より苦手でした」(撮影:岸隆子)
多くの情報番組で野菜の価格についてコメントする、スーパー「アキダイ」社長・秋葉弘道さん。23歳で立ち上げた青果店が成長できたのは、お客様や商売仲間との信頼関係を大切にしてきたからだと話します(構成:上田恵子 撮影:岸隆子)

自分を変えるために八百屋さんでアルバイト

1992年、23歳のときに、「アキダイ」第1号店を東京・練馬区の住宅街にオープンしました。あれから三十余年。今ではスーパーや青果店が9店舗、それ以外にパン工房や居酒屋、カラオケダイニングバーを経営するまでに。たくさんの人に支えていただいたおかげです。

僕は日々、「感謝の気持ちを忘れない」「困っている人がいたら助ける」ということを心がけています。どちらも仕事で痛い目を見たり、助けてもらったりするなかでそう思うようになりました。

今でこそ「名物社長」と言われ、テレビの情報番組で生鮮食品の市況についてコメントしている僕ですが、子どもの頃は人と話すのが何より苦手でした。

授業中に発言しようとすると、「えーっと、うーんと」とつっかえてしまい、思うように言葉が出てこないのです。コミュニケーションがとりにくいため友だちともうまくやれず、揉めるとつい手が出てしまう。周りも困っていたでしょうね。

そんななかで小学2年生のときの女の担任の先生は、「秋葉くんはこう言いたいんだよね?」と僕の気持ちを汲んで、よく助け船を出してくれる人でした。その優しさにどれほど救われたことか。

ところが5年生のときに担任になった男の先生から、「お前は何を言っているか全然わからない。もう発言するな!」と頭ごなしに言われてしまって。それを皆に笑われたこともトラウマになり、ますます話すことが苦手になっていったのです。接し方ひとつで、人の心はいかようにも変化すると、身をもって経験しました。

その後、高校生になった僕が自分を変えようと試みたことは2つ。1つは生徒会に入ること。そうすれば皆の前で話す機会が否応なく増えます。もう1つは、八百屋さんでのアルバイト。お客さんと話したり、「いらっしゃい!」と声を出したりすることがいい訓練になるだろうと思ったのです。