2月号の書は「ノスタルジア」です。
ノスタルジーとは《魂の本籍地》を想う心
私にとって「ノスタルジー」という言葉から思い起こされるのは、15歳まで過ごした長崎の情景です。
戦前の長崎は、東洋と西洋の文化が入り混じる独特な雰囲気の街でした。私の感性は、長崎という街によって育まれたといっても過言ではありません。幼稚園からの帰り、石畳をスキップし、西洋館の脇を抜け、我が家へと向かいます。父は丸山遊郭の近くでカフェーを経営しており、店には20名くらいの女給さんがいましたが、そのなかにはロシア人と日本人のダブルの方や、中国や朝鮮の女性もいました。おしゃれだった母は、ショールはロシア人の毛皮商の店で作るなど、常に本物志向。私は母のおかげでおしゃれの楽しさを体感しました。
カフェーの隣は芝居小屋で、歌舞伎や大衆演劇、レビューなどさまざまな芝居のほか、日本映画、フランス映画なども上映していました。カフェーの向かいはレコード店で、そこでラフマニノフ自身が演奏しているピアノコンチェルトや、コンチネンタルタンゴ、シャンソン、ジャズなど、さまざまな音楽にふれたことも忘れられません。長崎には、国境を越えた、美しい歌の世界があったのです。
歌の道に導いてくれた小学校の先生も忘れられません。たまたま私が一人で歌っているのを聞いた女性の先生が、ほかの先生たちの前で私に歌わせ、「この子、才能があると思います」と言ってくれた。その先生の紹介でバリトン歌手について、本格的に勉強するようになったのです。
誰にでも、心の故郷というべき土地があると思います。もちろんそこには、苦い思い出もあるでしょう。それでもきっと、その地での経験は人格形成に影響を与えているはずです。ノスタルジーとは、いわば《魂の本籍地》を想う心。たまには忘れかけていた子ども時代を思い出し、ノスタルジーに浸ってみてはいかがでしょう。
●今月の書「ノスタルジア」
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「あなたの人生を導く-美輪ことば」(著: 美輪明宏/ 中央公論新社)
「微笑みは開運の鍵」
「ルンルンルン」
「自分にも感謝を与えてください」
「地獄、極楽は胸三寸にあり」
美輪明宏さんが89年の人生をかけて大切にしてきた言葉が満載!
~~~自筆の「書」とともに綴る愛のエッセイ!~~