子どもたちが主体性を取り戻すために

当事者意識を持ち続けられる社会をつくるには、どうしたらいいのでしょう。

僕が以前校長を務めていた、東京都千代田区立麹町中学校でトライしてみたことを例に紹介します。

麹町中学校は、国会議事堂の近くという場所柄もあって、とても優秀な生徒が集まる学校というイメージを持たれています。

実際、僕が校長として赴任した当時の麹町中にも、幼いころから期待され、習いごとや体験活動、そして学習塾などで手厚いサポートを受けながら育ってきた子どもたちがいました。

当然のように私立中学を受験したわけですから、公立の麹町中学に入学してくるということは、ほとんどが受験に失敗したということです。そんな新入生の中には、主体性も自信もなくしている子どもたちがたくさんいます。

わずか12歳の子が「自分なんかダメですよ……」なんて言うんです。強い劣等感を抱え、勉強へのやる気も見られず、親も先生も信用できなくなっている生徒もいます。

「大人なんて、どうせ」がその子たちの口グセです。

反発心からなのか、問題行動を起こす生徒たちもいます。

授業中も平気で歩きまわり、みんなの邪魔をします。友達に嫌がらせをします。

ケンカだってしょっちゅうで、学校施設や備品などの破壊行為もめずらしくありませんでした。

そこで僕たち教員は「子どもたちが主体性を取り戻すためのリハビリ」が必要だと考え、その結果「生徒に押しつけのサービスをしない」ことを決めたのです。

まず3年間、入学から卒業まで「勉強しなさい」という声かけを一切しないことにしました。

たとえ授業中に小説やマンガを読んでいる生徒がいても、「君には勉強しない自由がある。でも、勉強したい人の邪魔をする自由はないよ」という最低限のルールを伝えながら、生徒の主体性を尊重する環境をつくっていきました。

しかし、こうした働きかけだけでは、主体性を失った子どもたちのリハビリはなかなか進みませんでした。そこで僕たちが考え出したのが、「生徒自身の自己決定をうながす言葉がけ」です。