同病院に入院していた女性とその家族と。中央の女性は爆撃で両腕を複雑骨折し、その娘(右隣)は両足を切断した(写真提供:MSF)

停戦後も「まだ恐怖の中に」

断片的に伝えられるガザの様子に心を痛めている方は、日本にもたくさんいます。何ができるかを考える際、一番大切なのは、皆さんがこうした状況に関心を持ち、情報を比較し、アップデートすることではないかと思うのです。

たとえば私がいた時、現地では石鹸が不足していました。では海外から石鹸を送れば解決するかというとそうではない。イスラエルが検問所で通さないものは入ってきません。金属製品は、武器に転用される恐れがあるとイスラエルに判断されてしまうとガザ内に入ってこない状況でした。そのため、病院で使用する手術の器械やワゴンなども届きませんでした。

あらゆることがイスラエル政府によってコントロールされた市民の生活は、人道危機に直面していました。これが《自治区》ガザの現実です。

ところがBBCなど海外の代表的メディアでさえ、「ガザ市民が被害に遭っている」とは報道しても、それを誰が、なぜ、どのようにやっているのかにはあまりスポットライトを当てません。日本でも同じですが、まるでガザ市民は自然災害にでも襲われているかのような報道が目につきます。

MSFは政治的に完全に中立です。しかし、紛争地帯や戦地で本当は何が起きているのか。そしてなぜそれは起こるのか。それを知り、考えることはとても重要です。

停戦合意後もイスラエルによる攻撃は続いています。同僚の現地スタッフは、「私はまだ恐怖の中にいる」と言っていました。停戦は和平へ向けたステップの第一局面に過ぎません。ガザの人たちが置かれた状況に、これからも心を寄せ続けていただけたらと思います。

後編につづく


パレスチナ・イスラエル現地報告『”壁”の外と内』
:取材ドキュメンタリー上映会+トーク・質疑応答 by川上泰徳(中東ジャーナリスト)

東京・西荻:2月23日(日)、24日(月)午後1時半から

2024年7月から8月にかけて1か月、パレスチナとイスラエルの現地取材を歩き、ヨルダン川西岸とイスラエルの現地を歩き、人々のインタビューした取材の記録を構成した映像ドキュメンタリー※昨年10月に東京・アップリンク吉祥寺で上映したものの完成版です。

【内容】
(1) ヨルダン川西岸でイスラエル軍による住宅破壊、学校破壊が進む占領の日常とそこで生きるパレスチナ人の肉声
(2) 地上の家を破壊され、伝統的な洞窟住居に住む人々。(※パレスチナの洞窟住居は日本では初公開)
(3) イスラエルの戦争や占領に抗議して兵役を拒否するユダヤ人の若者たちの肉声と召集の日のドラマ
(4) イスラエル国民はガザや西岸でイスラエル軍の「加害」を伝えないイスラエルのメディア状況
(5) パレスチナ人と連帯しようとするユダヤ人市民組織の活動―私が現地を歩き、足で集めた映像を構成しました。
※上映後、1時間のトークと質疑応答を行います。

【日時】2月23日 (日)/24日(月)各13:30-16:30 (13:00開場)
【場所】西荻シネマ準備室(西荻のことカフェ2F) 東京都杉並区西荻南3-6-2-2F(JR西荻窪駅南口徒歩3分)
【参加費】2000円、大学生以下1500円 ※定員30人
※次のメールアドレスに22日か23日を指定し、事前予約が必要。定員になり次第締め切ります。
予約メール:gazanomirai@gmail.com 
※予約メールを送った方には、受付確認のメールを返信します。※主催: 川上泰徳


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