死生観について考え始めたきっかけ

私自身が、死生観について考え始めたきっかけについて話しましょう。

実は、一度だけ死を覚悟したことがあるのです。

(写真提供:Photo AC)

数年前、血糖値が急に上がり、一か月で5キログラム体重が減少したことがありました。結果的には糖尿病でしたが、膵臓ガンが疑われ、多くの検査を受けることになったのです。もし末期の膵臓ガンであれば、余命はせいぜい2年です。

そのときに「膵臓ガンだった場合、治療は受けない」と真っ先に決めました。当時、抱えていた仕事も相当ありましたし、書きたい本もたくさんありました。治療をすれば体力が落ちて、やりたい仕事ができなくなると思ったのです。

膵臓は肝臓とともに「沈黙の臓器」と呼ばれていて、自覚症状が出たときには、かなり進行していることがほとんどです。もしガンだった場合、つらい治療をして心身ともにボロボロになって死ぬのは嫌だと思いました。

どうせ死ぬなら、症状の出ないうちに思いっきり仕事をしよう。そして、借りられるだけお金を借りて(踏み倒される側の方には大変申し訳ありません)、つくりたい映画を撮ろうと決めました。

何の治療もしなければ、ガンは比較的死ぬ寸前まで動ける病気です。動けるうちは、好きな旅行もできるでしょう。美味しいものを食べる体力もまだあるはずです。

人生の最期に、なるべく長く元気でいて、好きなことをやりたい放題やって死んでいく。これが私の死生観です。このとき、はっきりと分かりました。