©GARUDA FILM

 

夫婦、なさぬ仲の父と息子が紡ぐ絆

ラサは、チベットの人々が一生に一度は巡礼したいと願うチベット仏教の聖地。乗り物を使わず自分の足で行くことがよいとされ、なかでも、両肘・両膝・額(五体)を地面に投げ伏して祈る拝礼、五体投地をしながら進んでゆく巡礼は、最も功徳を積める尊い行為と言われる。『草原の河』(2015年)のチベット人監督ソンタルジャの最新作は、「中国で最も美しい村」に選ばれた秘境ギャロンからラサへと向かう巡礼の物語だ。

ロルジェとウォマ夫婦はチベット高原の山間の村で、慈しみ合い、幸せに暮らしている。ところが、妻ウォマが突然、聖地ラサへ五体投地で巡礼の旅に出ると言い出す。夫は半年以上もかかる旅に反対するが、妻の決意は固い。仕方なく送り出したものの、妻を心配して追っていくロルジェ、そして、ウォマの息子ノルウが母に会いたいと巡礼の旅に加わる。彼女はなぜ、巡礼を思い立ったのか。そして、ロルジェとノルウの関係は……?

実は、ウォマは旅立つ前に病院で重い病と宣告されるが、夫には話さなかった。それを知ったロルジェは彼女を連れ戻そうとあとを追ったのだ。

ノルウはウォマと、病死した前夫との間に生まれた一人息子で、彼女の実家に預けられていた。小学生になって物心もつき、素直になれないながらも一緒にラサに行きたいと言って譲らず、3人での旅が始まる。ノルウはロルジェに鋭い視線を送り、自分から口をきこうとはしないが、彼と母につかず離れず続く。

印象的な場面がある。頭からビニール袋をかぶったノルウが、やってくる車に向かって立ちふさがった時、ロルジェは頭ごなしに叱らない。理由をきけば、運転する人を驚かそうとしたと言う。彼は優しく笑い、それなら楽に息ができるようにと口元に穴を開けてやる。かわす言葉は少なくとも、二人の距離が狭まる予感がある。

病をおしてまでウォマが巡礼を決意したのは、死別した夫に、遺灰を持ってラサに行くと約束していたから。それを打ち明けられたロルジェの想いは複雑だ。彼女はいよいよ自らの死期を悟ると、前夫の遺灰で作った仏像(ツァツァ)を息子に託す。

巡礼の旅を描くシンプルなストーリーだが、言葉よりも眼差し、佇まい、仕草を細やかに映し出し、3人の心情が豊かに伝わってくる。始まりは亡き夫の想いを背負って進むウォマ、そして、彼女の遺志をロルジェが引き継ぐ。

約束の重さ、命の限りを知った人の凜とした清々しさ。亡き人に嫉妬するもの悲しさ。黙々と歩き、なさぬ仲の父と息子のわだかまりが薄れ、悲しみが癒えてゆく穏やかさ。揺れる想いを包み込む、美しく広大なチベットの風景のなか、人が生きて死ぬこと、そして、受け継がれてゆく命の尊さが心にしみいる。

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巡礼の約束
監督/ソンタルジャ
脚本/タシダワ、ソンタルジャ
出演/ヨンジョンジャ、ニマソンソン、スィチョクジャ、ジンバほか
上映時間/1時間49分 中国映画
■2月8日より岩波ホールほかにて全国順次公開

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©2019 VILLAGE ROADSHOW FILMS (BVI) LIMITED,WARNER BROS. ENTERTAINMENT INC. ANDRATPAC-DUNEENTERTAINMENT LLC

英雄から容疑者へ。「真実」を求めて

1996年、オリンピック開催中の米アトランタで爆弾テロ事件が発生。不審物の第一発見者リチャード・ジュエルは、当初は英雄視されたが、FBIが彼に疑惑を抱き、有力容疑者に。それが報道されてしまう。この実話をもとに、「真実」を求めて、当局やメディア、世論に立ち向かう者たちを描く。主演をはじめ、脇を固める俳優も好演。全国公開中

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リチャード・ジュエル

監督:クリント・イーストウッド

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©2019 Les Films 13 - Davis Films - France 2 Cinéma

仏映画の傑作『男と女』から半世紀

1966年フランス、クロード・ルルーシュ監督作の傑作『男と女』。50年以上が過ぎて、現在のアンヌとジャン=ルイを同じキャストで描く。記憶を失いかけている彼とアンヌが再会する。変わらないエスプリ、愛が蘇り、年齢を重ねたエーメの気品ある美しさが素晴らしい。1月31日よりTOHOシネマズシャンテほかにて全国順次公開

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男と女 人生最良の日々

出演:ジャン=ルイ・トランティニャン、アヌーク・エーメほか