こんな涙見せられて断れる男がどこにいる

その後、披露された富本を前にすすり泣く女郎たち。

驚く太夫と門之助に対して蔦重は、女郎は座敷芸で芝居と接していても、吉原を出ることが出来ない以上、本物の芝居を見に行くことができない。まことの芝居を見たことがない者がほとんど、見ることがないままこの世を去る者もいると説明。

その上で「吉原には太夫のお声を聞きたい女郎が千も二千もおります。救われる女がおります。どうか、女郎たちのためにも祭りでその声を響かせてはくださいませんか」と頼み込みます。

そして頭を下げようとする蔦重でしたが、下げきるのを待たず、太夫は食い気味に「やろうじゃねえか。こんな涙見せられて断れる男がどこにいる」と快諾するのでした。