湊かなえさん(撮影:洞澤佐智子)
2007年に『聖職者』で小説推理新人賞を受賞し、同作収録の『告白』が累計360万部突破のベストセラーに。『贖罪』がエドガー賞にノミネートされるなど、海外でも注目される湊かなえさんは、新刊『C線上のアリア』で介護ミステリに挑戦。家族の関係について思うことは――(構成:菊池亜希子 撮影:洞澤佐智子)

同世代の女性読者からのリクエストで

サイン会で、私と同年代の女性読者から「介護をテーマに書いてほしい」とリクエストされることが増えました。

淡路島に暮らして25年、私自身「長男の嫁」で、義母とも近い距離に住んでいます。まだ介護が始まっていない今なら、「私」個人の物語にならないと思い、毎朝読んでいただく新聞連載で介護ミステリに挑戦しました。

女性には逃げ場がないんです。家に帰れば現実が待っていて、疲れていても、落ち込んでいても、家族の夕飯を作らなければならない。

男性は仕事場では逃げられないけれど、家に帰ると目を閉じて、「森」へ行く人が多いのではないでしょうか。趣味の世界なのか、自由だった若き日々の思い出の世界なのか……それを小説では「森」と表現しました。

介護のため、昔暮らした町へ戻る主人公の美佐は私と同じ50代。この世代は二つの価値観の狭間で生きているように思います。男女雇用機会均等法以降に社会に出て、これからは男女平等だと頭ではわかっている。

一方で、朝から晩まで家を切り盛りする母親と、家庭では何もしない父親に育てられた名残りがやっぱりあるんです。特に、何でも母親にしてもらってきたこの世代の男性は、大人になっても家のことをしようとしない。妻も不満を抱きながらも、どこかで現状を受け入れてしまう……。