家族は危うさも秘めている
父も母も、生まれた時から親だったわけではなく、結婚するまでの人生があって、そのなかで思い出の曲や忘れられない出会い、風景があるんですよね。人生に上巻と下巻があるなら、子どもは親の上巻を案外知らない。
それに、親子の距離感もずっと一定ではないと思います。昨年、娘が社会人になったのを機に、私自身、娘の手をそっと離しました。困ったことがあったらいつでも相談に乗るけれど、それ以上に自分からあれこれ関わるのはやめようと決めたのです。
何歳になっても子どものことは心配。でも、どこかで意識的に切り離さないと、お互いにずっと離れられなくなって、それは子どもを身近に縛る鎖になりかねない。家族とはそんな危うさも秘めていると思います。
とはいえ「遠くに行け」と言っているわけではないんです。行きたければどこにでも行けるし、近くにいたければいてもいい。
それにね、お互いが元気なうちに「離れていても家族」という気持ちでいられると、いざ病気や介護で子どもの助けが必要になった時、公的な制度を使うことに躊躇せずにいられると思います。
心身ともに距離を詰め過ぎると、いざという時に他者の力を借りることすら親を見捨てるように感じ、家族だけですべてを抱え込もうとしてしまうのではないでしょうか。
私ごとですが、一昨年からロッククライミングを始めました。初めての日、年齢に不安を感じながら行ってみたら、なんと私が最年少。でも皆さん、軽快に登っていかれるんです。崖を登り切った時の達成感はたまらないですよ。
勇気を出して一歩踏み出せば、思ってもいない景色に出合える。人生の下巻、これからが楽しみです。