「自然にやわらかく、肩の力を抜いて。それを皆さんに感じてもらえたら、嬉しいです」

女優にとって、「そのまんま」というのがどれほど怖いことか。私は、役をいただいたら「さて、どうしようか」とあれこれ考えて、悩んで悩んで悩み抜いて、自分の体を通して役をつくってきました。だから「そのまんま」と言われると、かえって難しい。

実際、アンジーは衣装も赤いドレス一着きりですし、台本を読んでも素性がよくわからない。人間かどうかもよくわからないのよ。(笑)

だから、言われるがままにそのまんま、その場の自分の感情に素直に従って演じました。自然にやわらかく、肩の力を抜いて。それを皆さんに感じてもらえたら、嬉しいです。

この映画は、周りを固めてくださる共演者の皆さんも、とても豪華。特に寺尾聰さんは、1974年のドラマ『天下のおやじ』で私と親子役を演じて以来、なにかと駆けつけてくれる、芸能界の親戚のひとりです。仕事の現場でお会いするのはしばらくぶりだったから、とても嬉しかった。

昔を振り返ることは好きではありませんが、それなりに長く女優をやってきました。賞をいただけるのも、こうしてさまざまなお仕事をいただけるのも、これまで私を育ててくださったたくさんの方、作品を楽しんでくださる皆さんあってのこと。感謝しかありません。

この先なんて、もうないですよ。ここまでくると、どれくらい先があるのかしら、としか思わない。最近は、これをやらなきゃとか、ああなりたい、こうなりたいなんて思うこともなくなりました。自由に、そのまんま、わがままに生きるだけ。91歳、何がめでたい、ですよ、ほんとに。


アンジーのBARで逢いましょう

監督◎松本 動
脚本◎天願大介
出演◎草笛光子ほか

4月4日(金)新宿ピカデリー/シネスイッチ銀座ほか全国公開
配給◎NAKACHIKA PICTURES


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