真剣に好きなことを求めてきた
来年で結婚20年。50歳を過ぎての結婚なのでラブラブではないけれど、一緒にいて心地よい。私にとって、アトリエに籠もって制作する孤独も、一人静かに音楽を聴く時間も大切なものですが、誰かと一緒に聴きたいこともあるし、話をするのも好きなのです。
数年前に栃木・那須の山の上にアトリエを建て、夏はできるだけ夫と愛犬のルカと山で過ごしています。風の音を聞いたり、暖炉の火がパチパチ燃えるのを眺めたりするのは、心に栄養が与えられていると感じる時間。今後は東京での便利な生活から、少しずつ那須の暮らしに軸足を移していくことになるでしょう。
人生のなかでずっと真剣に好きなことを求めてきたし、無理なことは手放してきました。その過程でいくつかの恋愛、結婚もあります。そういう私の生き方の根底には、父の教えがあるように思います。父は家業に反発して自分で会社を興し、失敗もしたけれど、やりたいことを貫いた人でした。
私が大学生になったときに言われたのは、「みんなが右と言ったら左を見てみなさい」。これは反骨ではなく、「周りに流されず、本当に自分が面白いと思うほうへ進め」という意味。私がへそ曲がりなのは父の影響ですが、今の私に導いてくれた言葉です。
一昨年、36年ぶりに村上春樹さんから伝言が届き、村上さん翻訳のカーソン・マッカラーズ著『哀しいカフェのバラード』に挿画を描かせていただきました。村上さんの訳文を読み、物語のどこをどう切り取って挿絵にしていくか……久しぶりに設計図を描きながら1年間、1冊の小説に入り込みました。
これからは、60歳で始めた俳句を大切に続けながら、頭でなくもっと心でものを見て感じていきたい。そうしようとすることで、人は優しくなれると思いますから。
山本容子版画展「世界の文学と出会う〜カポーティから村上春樹まで」
第II期:2025年3月3日~5月27日/早稲田大学村上春樹ライブラリーにて
『不思議の国のアリス』など、児童文学をテーマにした作品を展示