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世界的に高く評価されている日本の医師制度。しかし、OECDの医療統計によると、人口1000人あたりの医師数は、日本は2.6人。OECD37か国の平均である3.7人を大きく下回ります。日本国内では近年、医師不足や診療科の偏在、医学部受験の加熱など、さまざまな問題が表面化してきました。そのようななか、千葉大学医学部在学中に国家公務員総合職採用試験に合格し、現在は慶應義塾大学医学部特任助教でもある、医師の木下翔太郎さんは日本の医療の現在地をさまざまなデータから俯瞰。いびつな構造を指摘します。そこで今回は、木下さんの著書『現代日本の医療問題』から、一部引用、再編集してお届けします。

「体力では男に負ける」

日本において、医学部入試における女性差別が長年行われていた背景には、日本の医療界が女性医師にとって働きにくい環境であったことが主要因であることは間違いないでしょう。日本の医療現場が女性医師にとって働きにくい環境だったことを示すエピソードは枚挙に暇がありません。

松永正訓先生の著書では、医学部で英語が入試に導入されはじめ、女性の入学者が増加傾向になった時期を振り返りこのように書いています※1。

<女性は確かに優秀であるが、体力では男に負ける。外科医なんて半分は体力仕事である。特に整形外科とか脳神経外科はそうだ。このままでは将来外科医のなり手が減るのではないか(中略)予想通り、女性はメジャーな外科教室に入局することは非常に少なかった。>

外科系は、手術の症例数を重ね、手技の上達などが求められる診療科ですが、手術は長時間に及ぶことも多いため拘束時間も長く、患者の状況によって昼夜問わず緊急で手術するといったことも多くあります。こうした忙しさは、体力的に女性には厳しい、と決めつける風潮が医学部の中にあったといえます。

また、女性はライフステージに応じて、仕事と出産・育児を両立させることが求められますが、多忙な日本の医療現場において、出産・育児と両立してキャリアを維持するハードルは大変高いといえます。

特に外科系の場合、術中の状況によって手術時間が変動することも多いため、勤務終了時間も読めないことが多く、定時に切り上げて子供を保育園に迎えに行く、といった仕事と家庭の両立はどうしても困難になります。