追っかければギャグ、追っかけられれば恐怖
僕にとって、笑いは恐怖の一ジャンルなんですよ。鬼ごっこのように、追いかける者と追われる者がいたとします。追われる方は、自分を傷つける者に追われるのは怖いと思うけれど、追いかける方は、切迫した事情がなければ、すごく楽しいんじゃないか。追われる方が滑ったり転んだりすると、余計におかしい。ギャグと恐怖の差は、そこだけだと思います。
つまり、「追っかければギャグ、追っかけられれば恐怖」なんですよ。同じ物事を、違う方向から見ているだけです。
例えば、お葬式で一人笑っている人がいたら恐ろしいでしょう。笑顔は敵意のないサインだと言いますが、宇宙人が見たら、「引きつけをおこしたような顔で、奇声を出すあの行為は何だ」って思うかもしれない。笑いの中には、人を殺す笑いだってあると思うんです。
※本稿は、『わたしは楳図かずお-マンガから芸術へ』(中央公論新社)の一部を再編集したものです。
『わたしは楳図かずお-マンガから芸術へ』(著:楳図かずお 聞き手:石田汗太/中央公論新社)
2023年に読売新聞で連載された「時代の証言者/楳図かずお 『怖い!』は生きる力」を再構成し、大幅加筆。
伝説となったユニークなエピソード満載で、生前の著者が自ら語り、聞き手の記者が可能なかぎり裏付け調査をおこなった「決定版自伝」。