店の利用客から従業員が迷惑行為を受ける「カスタマーハラスメント(カスハラ)」が社会問題として注目されています。4月1日から、全国初のカスハラ条例が東京都や北海道などで施行されました。「悪質なカスハラ」と「耳を傾けるべき苦情」の違いに悩む方も多いのではないでしょうか。大手百貨店で長年お客様相談室長を務め、現在は苦情・クレーム対応アドバイザーとして活躍する関根眞一さんは「カスハラに対抗するためには実態を知り、心構えを持つことが必要」と指摘します。そこで今回は、関根さんの著書『カスハラの正体-完全版 となりのクレーマー』から、一部引用、再編集してお届けします。
異様な光景
ご結婚を控えた女性は美しいものです。この話に登場する20歳代の女性もその一人でした。この人、Aさんは官庁宿舎にお住まいの方です。
それは、婚約指輪を買うところから始まりました。商品は婚約用のペアリングです。
Aさんは、以前からご贔屓のお客様で、店舗にも時々お見えになっていました。
その日は、嬉しそうに婚約者同伴です。寄り添うように商品を選び、お2人の意見が一致するのにそう時間はかかりませんでした。それぞれの指輪にはイニシャルを入れることにして、出来あがり日を記入したお誂え伝票を、お持ち帰りいただきました。
そのさいも、担当した社員に向かって、2人のなれそめや今後の計画を楽しく雑談して、お帰りになりました。
1週間ほど経ってから、Aさんに連絡を入れました。
「指輪のサイズ調整が出来あがりました。ご都合のよいときにご来店ください」
「近日中に行きます」
とのお返事です。おめでたい商品ですから、売り場としては、すぐに喜んでご来店いただけると思っていました。しかしAさんは、なかなか見えません。
そこで、販売担当者は、再度ご来店のご案内をしました。
これに対し、Aさんから売り場のリーダーへ苦情の電話が入ったのです。
「彼がすでに海外に出ており、一緒に取りに行けないことは分かっているでしょう。先日、担当の人にもよく話したじゃないの。なんでできないことを言うの? どうしてそんな意地悪をするのか、説明に来てください」
どうやら「2人で来て」と言われたことに対して、クレームをつけてきたようです。
(もしかして、婚約者と喧嘩でもしたのか)
私たちは、そうも考えました。