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店の利用客から従業員が迷惑行為を受ける「カスタマーハラスメント(カスハラ)」が社会問題として注目されています。4月1日から、全国初のカスハラ条例が東京都や北海道などで施行されました。「悪質なカスハラ」と「耳を傾けるべき苦情」の違いに悩む方も多いのではないでしょうか。大手百貨店で長年お客様相談室長を務め、現在は苦情・クレーム対応アドバイザーとして活躍する関根眞一さんは「カスハラに対抗するためには実態を知り、心構えを持つことが必要」と指摘します。そこで今回は、関根さんの著書『カスハラの正体-完全版 となりのクレーマー』から、一部引用、再編集してお届けします。

カスハラの王様

「何でそんな大事なことを、早く言わなかったんだ!」と、私は書籍売り場の社員に怒っていました。現場で何度も繰り返されたカスハラ、それも、セクハラともとることができる事件を処理できずにいたということが分かったのです。

30代前半の男が書籍売り場で女性社員を困らせて泣かせるのだそうです。店長や総務担当に、「あなたたちは、そのとき何をしていたのか」と聞くと、その男から先にくぎを刺されたのだそうです。「この女性が嘘を伝え私を翻弄し、無駄な時間を費やしたため文句を言っている。たとえ上司でも、出る幕ではない、この女性が悪いのだ」と。「それで、対抗せずにそこに居たのか」「引き下がりはしません。そこで動向を確認していました」「つまり、見ていただけじゃないか。それでは販売員が職場放棄して辞めてしまうだろう」「……実は、すでに2名がこの男の犠牲になり辞めています」「呆れたよ、どのくらい前からだ」「かれこれ、3年になります」。実に長期間にわたる被害です。

翌日、旧知の書店役員と本部の部長、店の店長と総務担当の4名を呼び、相談しました。「氏名、年齢、住まい、正体は掴んでいるのか」「Eと言うようです」「役員、これをどうしたいのですか」「出来れば追い出したいです」「そうでしょう、出入り禁止にしましょうよ」

入店規制や出入り禁止にすることは、内容次第で可能です。

しかしEさんと対等に話す度胸のある社員はおらず、ならば、過去の事例を具体的にまとめたものを見て対応しようということになりました。まとめられた書類は温情的に書かれており、そんなものでけりが付くとは思いませんでしたが、私は敵を知るために、Eさんの起こした事例についてじっくり読んで予習しておきました。

 

ちなみに、この事件の舞台は2000年代初期の頃です。当時はカスハラという言葉はないのですが、実態としてはあったのです。Eさんは、いじめが趣味の、まさにカスハラの王様といえる人物でした。現在は、国が規制を掛け、都道府県が条例や規則を作成しているタイミングですので、お客様を出入り禁止にするのはより容易でしょう。