(写真はイメージ。写真提供:Photo AC)
2023年に甲状腺がんと診断された永寿総合病院 がん診療支援・緩和ケアセンター長の廣橋猛先生は「がんの緩和ケア医療を専門とし、医師として患者に正面から向き合ってきたが、いざ自身ががん患者になると戸惑うことが多くあった」と話します。そこで今回は、廣橋先生の著書『緩和ケア医師ががん患者になってわかった 「生きる」ためのがんとの付き合い方』から一部を抜粋し、がん患者やその家族が<がんと付き合っていくために必要な知識>をお届けします。甲状腺を切除する手術は無事に終了。術後の入院生活を送る中で、廣橋先生が感じたことは――

傷が痛むも病院側に遠慮してしまう

手術当日、深夜になりました。

翌朝までベッドから起き上がることはできません。点滴に繋がれ、首元にはドレーンが入り、そして尿を出すための管も留置されたままです。

少しの水を飲むことはできましたが、ほとんど身動きできないので、腰が痛くなってきます。夜勤の看護師さんが、抱き枕を持ってきてくれて、楽な姿勢に整えてくれました。こういった細かい配慮が患者には本当に助かります。

しかし、寝ようと思っていると、また傷の痛みが強くなってきました。ロピオンは投与できる時間の間隔が決まっているため、次に投与してよい時間まで1時間近くありました。看護師さんも心配してくれます。

「先生に相談してみましょうか?」

「いえ、大丈夫ですよ。あと1時間くらいなら待てます」

わざわざ深夜に先生に連絡してもらうのは、迷惑をかけてしまうと思って遠慮したのです。緩和ケア医としての私だったら、そんな我慢しちゃダメだと患者さんに言っているのにです。

患者が医師に気を遣ってしまうという行為を自分自身で体現してしまいました。