(写真はイメージ。写真提供:Photo AC)
2023年に甲状腺がんと診断された永寿総合病院 がん診療支援・緩和ケアセンター長の廣橋猛先生は「がんの緩和ケア医療を専門とし、医師として患者に正面から向き合ってきたが、いざ自身ががん患者になると戸惑うことが多くあった」と話します。そこで今回は、廣橋先生の著書『緩和ケア医師ががん患者になってわかった 「生きる」ためのがんとの付き合い方』から一部を抜粋し、がん患者やその家族が<がんと付き合っていくために必要な知識>をお届けします。

心まで「病人」になってはいけない

私の甲状腺がんは周辺のリンパ節まで転移して拡がってはいたものの、一応手術ですべて取り切って、あとはホルモン剤を飲みながらの経過観察となりました。

病気の特徴から数十年単位で再発する可能性は否定できません。頸部の周囲にあるリンパ節や肺に転移することがあると言われています。

肺などに転移してしまった場合、手術で治すことはできないでしょう。抗がん剤治療になると思われます。がんの種類によっても異なりますが、一般的には他の臓器に転移してしまうということは、がん細胞が血流にのって散らばってしまったことを意味します。

転移した場所だけ手術しても、すべてを消滅させたことにはならないのです。そうなってくると、余命についても意識しなくてはならなくなります。

実際に、自分と同じ病気の患者さんを、緩和ケア医の立場で何人も診てきました。だいたいが転移・再発を経験されている方です。

どのような病気の方でも、分け隔てなく全力投球で必要な緩和ケアを行っているつもりですが、どうしても同じ病気の方の場合は、将来の自分の姿なのではないか。そのような想いが心の底で少しだけ芽生えてきてしまいます。

この恐怖と私は数十年間、いや一生向き合っていくのです。