でもデビューから5年目、22歳の時に「愚図」という曲がヒットした時、人生に無駄はないのだなぁと痛感しました。それまで底抜けに明るいキャラとして認識されていた私が、切ない恋心を歌うというギャップに魅かれたと言ってくださる方がたくさんいたのです。

今でも「どっちが本当の研さんですか?」と訊かれますが、両方とも私なんです。みんなそうじゃない? 晴れの日もあれば雨の日もある。でも雨のあとに綺麗な虹が出て、新たな希望を見出すということの繰り返し。それが人生だもの。

その後も、「あばよ」「かもめはかもめ」「夏をあきらめて」と数々の失恋ソングを発表しましたが、この悲しみを乗り越えたら一回り成長できるはず。人は何度でも羽ばたけるんだよ、という気持ちを込めて歌い続けてきました。

大きな賞をいただいたこともあります。念願だった『NHK紅白歌合戦』に初出場した時も幸せをかみしめていました。両親にも約束通り家をプレゼントして。でも、「歌手生活を振り返って何を思いますか?」と訊かれると困っちゃうんですよ。私、過去を振り返らないので。

嬉しかったことを振り返れば傲慢になってしまいがちだし、悲しかったことを振り返れば鬱々としてしまいがちだし。それに過去を振り返ることと未来の不安はセットになっている気がします。

プライドを保てるだろうか? とか、今度はうまくいくだろうか? とか、余計なことに気を取られて心が疲れちゃう。私は今がすべてだと思ってます。だって今をどう生きるかで未来が決まるんですから。

振り返っている暇なんてないというのもあって。歌は歌えば歌うほど難しい。芸の世界ってどこまでも深いんですよ。私は「これで完成だ」なんて一度も思ったことがないし、もっとうまくなりたいなぁってことばっかり考えていて……。満足していないから長く続けてこられたのかもしれませんね。

もっとも、昔からゆったりしてるんですよ。そういう自分の本質的なことは無理して変えないほうがいいと思う。ありのままの自分にふさわしい生き方を選ぶってことが大事なんですよ。

若い頃は自分がどうしたいのかさえわからなくて戸惑っていたけれど、さまざまな経験を経て自分のことがわかるようになってから楽になりました。

意外と自分は強かだと思えたら、「自由な気分で新しいことに挑戦したい! きっと新鮮な世界が広がる」と、ワクワクするようになったんです。

後編につづく


うぉっしゅ

監督/脚本 岡﨑育之介
企画:岡﨑育之介 音楽:永太一郎
(c) 役式 配給:NAKACHIKA PICTURES

5月2日(金)より新宿ピカデリー、シネスイッチ銀座ほかにて全国公開


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