「近代日本経済の父」

そんな事を思っていた時に、渋沢栄一(敬称略)に出会いました。

数年前の大河ドラマ『青天を衝け』の主人公。そして新1万円札の顔として知られる人物。数百もの企業を興した偉人。またの名を「近代日本経済の父」

イメージ(写真提供:Photo AC)

この肩書だけをみた時は、自分が「渋沢栄一」に対して興味を持つようになるとは思っていませんでした。「経済」を動かす人は「お金」を動かす人。多くの資本家たちがそうであるように、渋沢もまた「財産」を増やす技術にたけた人、そしてその技術や知識がない人たちに対して「自己責任」「努力が足りない」と見下しているような人物ではないかと先入観を抱いていたのです。そう思ってしまったのは、貧乏人の僻(ひが)みもあると思います。ですが、渋沢栄一はそのような僻みも吹き飛ばすスケールの大きな人間でした。

「私は論語で一生を貫いてみせる」

そのように言い切り、『論語』を人生の指南書とした渋沢栄一。『論語』は漢文の時間にやった「子曰く……」というアレ。中国の有名な哲学者・孔子の教えを説いたものです。というと、ちょっと難しいような気もしますが、その中にあふれる渋沢の言葉は、現代の私達にも心に響くものばかりです。

「一人だけ富んでそれで国は富まぬ」

専制主義(編集部注:特定の個人が権力を持つ体制)をよしとした岩崎弥太郎(注:三菱財閥の創始者)に対して、渋沢栄一は合本主義を貫きました。合本主義とは「多くの人から出資を集め、利益を分配すること」。まあ、資本主義ですが、渋沢は合本主義という言葉を好んだようです。