花々に囲まれて
外出が少なかったAさんは、ハンカチを大切にしまっていた。
息子さんは、「いつか店を大きくして人を雇い、母親に楽をさせてあげたい」と考え、懸命に働いていたが、その日は来ないままAさんが心臓を悪くして入院。退院後も体調がすぐれず、私の働く施設に入所してきた。
働き者だったAさんはいつも笑顔で、おしぼりを巻いたりタオルをたたんだり、私の仕事を手伝ってくれた。しかし、徐々に歩行困難となり、やがて寝たきりに。
部屋の壁のハンカチは、息子さんがフレームに入れて掛けて帰ったもの。Aさんが亡くなった時、息子さんは「感謝のしるしです」とそれを一枚、私にプレゼントしてくれた。
お葬式では、棺で眠るAさんの上に色とりどりの花柄のハンカチが広げられ、まるでドレスのようだったという。いただいたハンカチを机に飾って、優しかったAさんを偲んでいる。