連載「相撲こそわが人生~スー女の観戦記」でおなじみのライター・しろぼしマーサさんは、企業向けの業界新聞社で記者として38年間勤務しながら家族の看護・介護を務めてきました。その辛い時期、心の支えになったのが大相撲観戦だったと言います。家族を見送った今、70代一人暮らしの日々を綴ります
自慢話の独演会にうんざりした2人
デパートのレストラン街のトイレでのことである。大きな鏡の前で自分の顔を見て、今後、もっと老化するぞと思った。蓄えに余裕のある高齢の友人たちは、年齢に関係なく、シミ取りやシワ取りなど美顔にいそしんでいる。父の借金返済と介護、母と兄の介護に全員が亡くなるまで金銭をつぎ込んだ私は、経済的な余裕がない。だが、家族の介護に対する後悔はないのだ。
そして、顔の筋肉は衰えても、好奇心だけは衰えを知らない。トイレの個室から出てきた60代と見える2人が、手を洗いながら話していることに興味をもち、その場にいた。
「レストランに戻りたくない。このまま帰りたい。自分が惨めになるわ」
「同感。彼女の自慢話の独演会ね。親の遺産で家をリフォーム。金持ちの友人と2人で海外旅行。旦那は一流企業の重役、息子もエリート社員で嫁と孫はなにかと気を使ってくれる」
「あなたと家が近いから時々会っているなんて、同窓会で話してしまい、ごめんね」
「また食事に誘ってきたら、パートの仕事があるとか、家族が病気とか言って断ろうよ」
2人は、厳しい顔をしてトイレを出ていった。
私は70代に突入するまで、他人の自慢話をいろいろ聞いてきた。それが見栄で嘘だと知ったこともある。また、本人は自慢のつもりでなくても、聞いている人には自慢話になってしまう場合がある。