世間知らずのお坊ちゃん
暮らし向きは楽ではなかったが、ふたりの女性に大事にされ、嵩は世間知らずのお坊ちゃんとして育った。
周囲の子どもはみなきものに下駄ばきだったが、東京から引っ越してきた嵩は、モダン好みだった父の影響もあって、半ズボンに靴、房のついたニット帽というスタイル。
近所の子たちの中で自分だけ幼稚園に行っていないのを不思議に思うことはあっても、家が貧乏だとは夢にも思わず、母が財布をひらけば、そこにはいつもじゅうぶんなお金が入っていると信じていた。
性格は内気でおとなしかった。近所の男の子は年上の小学生しかいなかったので、遊びといえば、女の子のままごとに入れてもらうか絵を描くかだった。