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集中力を保つことが苦手、整理や計画が苦手などの特徴がある発達障害の一種<注意欠如・多動症(ADHD)>。累計120万部を突破した『スマホ脳』シリーズの著者であり、精神科医のアンデシュ・ハンセンさんは「誰でも多かれ少なかれADHDの傾向がある」と話します。そこで今回は、アンデシュさんによる書籍『多動脳:ADHDの真実』から、一部を抜粋してご紹介します。

この世界は退屈すぎる!

人間も種の1つにすぎない──かなり特殊な種ではあるが。自分たちの本質がいかにして進化を遂げたかを解せずして自己を理解することはできない。

──マット・リドレー(生物学者、作家)『赤の女王──性とヒトの進化』

自分をやる気にさせるもの、それは何だろうか。恋愛? お金? それとも周りの人からの承認? 安心? 未知の経験かもしれないし、切り立った崖をスキーで滑り降りたり、パラシュートで空から飛び降りたり、マラソン大会に出たりといった「限界への挑戦」かもしれない。

医学的には単純な答えがある。人間をやる気にさせるのは脳の奥深くにある豆ほどのサイズの脳細胞の集まりで、医学用語では「側坐核」、俗に「報酬系」「脳の快楽中枢」などと呼ばれている。

自分が好きなこと──美味しいものを食べたり、友達と会ったり、音楽を聴いたり、フェイスブックに「いいね!」がついたり、セックスやランニングをしたり──はどれも側坐核から始まるのだ。

報酬系はよく神経科学の雑学ネタで紹介され、セックスをしたり、仕事で昇進したり、美味しいものを食べたりするとクリスマスツリーのようにぴかっと点灯するイメージが定着している。しかし側坐核は心地良さを提供するだけでない。実は他にも重要な役割を担っている。

報酬系は上司に褒められたら急にスイッチがオンになり、その後はオフになるというものではなく、常に「待機モード」になっている。教室で授業を聴いている最中もいくらか活動しているし、この一文を読んでいる間もそうだ。

活動が下がるとこの記事に退屈しているということで、他に活性化してくれるものはないかと探し始める。例えばスマホ──スマホには報酬系を活性化させるとんでもない力がある。先生の話が長いからスマホを手に取りたくなるのには側坐核が関わっている。

側坐核はその人がやろうとしていることに「時間をかける価値があるかどうか」を常に伝えてくるが、そこで「価値がない」という判断になると、別のものを探したい衝動が起きる。つまり側坐核は先生の話を聞いたりこの記事を読み続けたりする価値があるかどうかを伝えてくるのだ。