武士の社会では違った傾向も

一方、武士の社会には、また違った傾向が見られます。

たとえば江戸時代末期の鹿児島で書かれ、明治時代に盛んに読まれた「賤のおだまき」という作品があります。

時は慶長元年(1596年)、島津家の家老、平田増宗の息子の平田三五郎は、言い寄ってくる青年たちに囲まれていたところを、通りかかった吉田大蔵に救われます。互いに惹かれ合った二人は、やがて結ばれます。

ここで注目すべきは、結ばれた二人が義兄弟の契りを交わし、武道に精進することを誓い合うのです。

そして慶長四年(1599年)の庄内合戦(この戦いは史実として存在しました)に出陣した二人は天晴れ、討ち死にを遂げました。

つまり武士の同性愛は愛欲にとどまらず、立派な武士に成長するための手段でもあった。この点で、男性と男性の恋愛は「精神的な価値が高いもの」と賞賛されました。

以上、ドラマ内の唐丸の悲惨な経験とやや話が異なりますが、あらためて整理をすれば「日本において、男性同士の恋愛はごく普通に存在した」と言えるでしょう。

しかも肉体的な強者がか弱く美しい相手を守るスタイルであったり、精神的にも肉体的にも強い二人が契りを結んで切磋琢磨するスタイルであったりと、複数のバリエーションがあり得たのです。

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