悪を見破るのは難しい
悪についてもうちょっと考えてみましょうか。悪いものは、いかにも悪い感じで現れるとは限りません。我々の社会は、なんであんなことで騙されるのだろうということで簡単に騙されるものなのです。
偽の子どもになりすまして電話をして、その親からお金を騙しとる事件があったでしょう。自分は絶対にあんなものでは騙されないと思っていても、あっさり騙されてしまう。自分がその場に立つと理性を失ってしまうのですね。悪を見破るのは簡単なことではありません。
騙すという行為は確かに良くないけれど、騙される側にも信じやすいとか、人が良すぎるとか、ややまずいところがある。だから詐欺罪は罪としては強盗傷害や殺人に比べると意外と軽いのです。だからあっていいかというと、あっては良くないんだけど。全員まっ正直というわけにもいかないというのが、この世の中なんだよね。
※本稿は、『新装版 わたしが正義について語るなら』(ポプラ新書)の一部を再編集したものです。
『新装版 わたしが正義について語るなら』 (著:やなせたかし/ポプラ新書)
正義とは何で、正義の味方とはどのような人なのか。戦争を生き抜き、国民的ヒーロー「アンパンマン」を産みだしたやなせたかしが、その半生を通じて向き合った「正義」のあり方とは。
混迷の時代に生きる勇気をもらえる、やなせ流の人生哲学。