セリフは物語を書きながら
――タイトルにも伊坂さんの強いこだわりを感じます。
そもそもタイトルが決まらないと書けないんですよね。決まらないとずっと悩んでいます。「イヌゲンソーゴ」というタイトルは、よく覚えていないんですけど、犬をテーマにしたアンソロジーで、そもそもの依頼が、「伊坂幸太郎」の「太」の字を「犬」に変えて、「伊坂幸犬郎」として書いてくれという変なものだったので(笑)、タイトルもそれにちなんで、「すでにある熟語の一文字を犬に変更したものにしようかな」と発想したような気がします。
「大言壮語」を「犬言壮語」と変換して、それだとちょっと堅苦しいからカタカナにしたのかも。この企画なら、ふざけても許されるかな、と(笑)。「パズル」は、短編集のタイトルを、『パズルと天気』にしたくて、そうするためには一編、「パズル」というタイトルにしたほうがいいかなと安直に考えたんですよね(笑)。これもまた深い意味はなくて、申し訳ないのですが。
――「他人のことはパズルだと思うより、天気だと思ったほうがいい」というセリフが心に残りました。「パズル」に限らず伊坂さんの作品は名言の宝庫として広く知られていますが、人生哲学を感じます。
セリフは物語を書きながら出てくるんですよね。セオリーがあるわけでもなくて、五行先がぱっと思いついた、みたいなことが多いんです。だから、ほんと深い意図がないことが大半なんですけど、僕自身がその時、悩んでいることに関して、楽になりたくて書いている文章も多い気がします。
「他人のことはパズルだと思うより、天気だと思ったほうがいいな」とかも。読者に伝えたい、というよりも、自分が楽になりたくて書くというか。だから、偉そうなことを書いていても、僕自身も実践はできていないです。(笑)
本書のタイトルを『パズルと天気』にしたのは、なんとなく、いい組み合わせだなと思ったからなんですが(笑)、“パズル”は頑張ればどうにかなるけど、“天気”は努力や根性ではどうにもならないなあとも後から気づきました。こうして一冊にまとめてみると、自分は“パズル”と“天気”の両方を描きたくて小説を書いてきたのかなと思ったり。