『パズルと天気』(PHP研究所)
作家生活25周年を迎えた伊坂幸太郎さん。節目にあたる今年、5月30日に刊行される『パズルと天気』は、単著未収録だった「竹やぶバーニング」「透明ポーラーベア」「イヌゲンソーゴ」「Weather」と、本書のために書き下ろした「パズル」の5編で構成されている。どの作品も読み始めたら止まらない伊坂ワールド炸裂の短編集だ。(構成:丸山あかね)

20年前に書いた短編から書き下ろしまで

――『パズルと天気』に収められている作品は書かれた時期がバラバラですが、過去に書かれたたくさんの短編の中から何を基準に選出したのですか? 

一番古いのは2005年に発表した「透明ポーラーベア」なんですよね。恋愛小説として依頼された作品なのですが、もともと恋愛小説に詳しくない上に、50代の今、読み返すと、気恥ずかしい部分も多くて(笑)、改めて発表するならばと、あちこち手を入れました。もちろん、大筋は変わっていないんですけど。今回収録した作品はどれも、「人間ドラマかおとぎ話で、自分らしさがある」という視点で選んだ感じかもしれませんね。

20年前に書いた「透明ポーラーベア」から今回のために書き下ろした「パズル」までの作品を一冊の中に並べるのはどうなのかと、最初はちょっと不安でした。統一感に欠けちゃうかな、という気がして。担当編集者はまったく気にならないと言ってくれて、ほっとしたんですけど、一方でそれって成長していないともいえるわけで、ここはちょっと微妙なところです。(笑)

短編を書く時は、読者をもてなす気持ちが強いのかもしれないです。長編に比べると、「仕事」として書く意識が強いからなんですが、起承転結があって、「なるほど」というオチを用意しないといけないと思っているんですよね。

――最新作「パズル」は、マッチングアプリから始まる数奇な出会いという設定が印象的です。発想が生まれた経緯について訊かせてください。

とにかく、「くだらなくて笑える」ポイントがみつからないと書けないんです。「竹やぶバーニング」は、もしも仙台の七夕祭りで、アーケードを飾る竹の中に異物が混入したという事件が起きて、その異物がかぐや姫だったとしたら……と思いついて、「書ける!」となりました(笑)。「Weather」は編集者が「彼の前では当たり障りのない会話しかできない」と苦笑いしていて、「そういう理由で天気の話に詳しくなった人がいたら面白いかも」と思いついて、生まれた話です。

「パズル」の時ははじめは、そういうポイントがなかったんですが、マッチングアプリで知り合った女性を巡る謎を、マッチングアプリで知り合った別の女性に打ち明けて解明していくのはどうかと閃いて、書くモチベーションが上がりました。現実的すぎるのも、ひたすらファンタジーなのも、どちらかだけに寄るのが苦手というか、書けないんです。その中間にワクワクするんですよね。

難しい話も書きたくないんです。内容を難しくしたくない、というよりも、難しい話でもなるべく分かりやすく書きたいんですよね。登場人物の名前も、読者が苦労して覚えなくてもいいようにしたい、と思って、かなり悩みます。

「竹やぶバーニング」に出てくる竹沢不比人は、『竹取物語』の登場人物のモデルではないかといわれる藤原不比等から名づけたり、「佐藤」と「伊藤」にしたら「藤」が一緒になるからやめようとか、身体が大きいから「鯨」にしようとか。読者の「この人誰だっけ?」と考えてしまう負荷をなるべく減らしたいんですよね。負荷をかける必要がないところはなるべく、分かりやすくしたい。