自分が一番びっくりしている

2000年に『オーデュボンの祈り』で新潮ミステリー倶楽部賞を受賞して作家デビューしたものの、いきなりヒット!みたいになるわけもなくて、もともと担当編集者から「作家だけでは食べていけませんから、仕事は辞めないでくださいね」と釘を刺されていました。

ただ、ある日、出社するバスの中で、斉藤和義さんの「幸福な朝食 退屈な夕食」をウォークマンで聴いていたら、いつになく感動して、「斉藤和義さんは音楽のことだけを考えているから、こういう曲が作れるんだろうな」と思って、その時は、『重力ピエロ』という小説を書いていたんですけど、「この小説を悔いのない形で完成させるためには、専念しないといけないのかも」という気持ちになったんです。

それでその日の夜、奥さんに、「会社を辞めて、専念してみようかな」と話して。「3年やってダメだったら仕事に戻るから」と。その時、奥さんから、「気持ちはわかるけど、不安かも」と言われたり、「私がその分頑張るよ!」と言われたりしたら、たぶん、会社を辞めなかった気はするんですよね。

ただその時は、奥さんが、「いいんじゃない」って、すごくいい感じで(笑)言ってくれたんです。「あ、いいんだ?」と思って、それで、「じゃあ、専念してみよう」と決心できて、あれは本当に感謝しています。

その時点では25年も作家を続けられるとも、これほどたくさんの作品を書くとも思っていませんでした。いつのまにかベテラン作家の仲間入りをしていて、自分が一番びっくりしている感じです。