いろんな人から応援されて
――作家生活を振り返って何を思われますか?
目の前の仕事と向き合っているうちに、気づけば年を重ねていたという感じで、改めて考えてみると小説家として25年も暮らせてきたのは本当にラッキーだなあと思ったりします。いろんな人に応援されたことが大きかったんですよね。周囲の人達にも恵まれていたんだと思います。
大学1年の時に小説を書き始めて、1年に1作長編小説を書いて新人賞に応募していたんですよね。受賞もできず、そうこうしているうちに就職する時期がやってきて。本当は社会に出るのは嫌だったんですけど、一応、それなりに真面目な性格なので、「小説を書くから就職しない」のは逃げのような気がして、就職はしようと決めて。
紆余曲折あって、地元の小さなソフトウエア会社に就職したんですよね。友達の多くは大きな企業に就職したんですけど、そうじゃなくても幸せになれるんじゃないかなみたいなことも、ぼんやり考えたのを覚えています。後で、大企業のほうがいいなと羨ましくもなりましたけど。
ただ、実際、その会社に就職したからこそ、今の僕があるとは思うんですよね。会社の社長が少し変わった、豪快だけど、いい人で……。入社1年目のとき、大学在学中に書いた長編がサントリーミステリー大賞という賞の佳作に選ばれたんです。それでちょっと本気で目指したいなと思っちゃって、だけど社長は僕たち新人に期待してくれていたので、仕事のほかに力を入れていることがあるのが心苦しくなっちゃって。
ある時、電話をして、「こういう夢があるので辞めさせてください」と打ち明けたら、「おまえ、それまでどうやって食っていくんだ。夢が叶うまでうちの会社を利用しろ」と言ってくれたんですよ。「ただ、誰にも言うなよ。仕事を教えてもらえなくなるから」ともアドバイスしてくれて。本当に感激しました。そういう風に、いろんな人に恵まれた結果、まあ、僕も頑張ったんですけど(笑)、小説を書く仕事につけたんですよね。