契約解除か、継続か?
事態を暗転させたのは新型コロナウイルスの感染拡大だ。同年7月に予定されていた東京大会は開催が1年延期に。それに伴って入居時期も先延ばしになった。不動産会社に状況を何度も問い合わせたが「何も決まっていない」の一点張り。そんな中、届いたA4の1枚紙。契約解除か、継続か。コロナを理由に説明会も開かれないまま、機械的に選択を迫る文面に不信感が募った。
移り住むまでにかかる月30万円以上の賃料の補償や具体的な説明を求め、21年1月に不動産各社を相手取り調停を申し立てたが取りつく島もない。男性を含む複数の住民が原告となった集団訴訟に発展した。
不動産会社側は大会の延期が決まった際、東京都などと選手村としての契約を新たに結び直し、41億円の追加賃料を受け取っていた。住民側は訴訟で、不動産会社側がその使途について説明を拒むなど「納得のいく対応を一切取っていない」と批判。予定通りの引き渡しに向け最善の努力を尽くしたとも言えないと訴えた。
これに対し、会社側は都などとの再契約に応じる義務があり、大会開催が延期となった以上、引き渡しが遅れたのはやむを得なかったと反論した。協力業者や作業員、機材確保の調整や資材搬入計画の見直しなどを迫られ、品質や安全性にも配慮しながら工期を大幅に短縮するのは困難だったと強調した。
22年12月の一審・東京地裁判決は住民側の訴えを「門前払い」にした。契約上のもともとの引き渡しは23年3月で、弁論終結時点ではまだ実際の遅れは生じていなかった。判決は「将来的に生じる損害」を求めることはできないと断じた。