調停申し立てから3年弱を経て……

引き渡し期限を過ぎた後の23年8月、東京高裁判決は生じた損害について改めて検討するよう求め、審理を東京地裁に差し戻した。入居が遅れたことに不動産会社側の落ち度があったといえるのか、それとも責任は問えないのか。調停申し立てから3年弱を経て、訴訟はようやく「肝」の部分の審理に入る。

多くの人にとって「マイホーム」が生涯で一番高い買い物であることは言うまでもない。りそな銀行が3年以内に住宅を購入した1815人を対象にした21年のアンケート(複数回答)で、52%が購入のきっかけを「自分自身や家族、子どものライフステージの節目」と回答した。晴海フラッグ訴訟の弁護団によると、原告の中にも子どもの進学期と重なるタイミングで入居を想定していた家族がいたという。

<『まさか私がクビですか? ── なぜか裁判沙汰になった人たちの告白』より>

だが、住宅の新築を巡る業界環境は厳しさを増している。引き渡しの遅れによる人生設計の変更は五輪選手村に限った話ではない。コロナ禍で資材の高騰や不足などが顕在化し、各地で実際に住宅の納期が遅れるケースが相次いだ。

国民生活センターによると、引き渡しの遅れや欠陥など新築工事に関する相談は22年度に3060件。国勢調査によると、住宅建設を担う大工は20年時点で約29万人と40年前の3分の1にまで減った。今後は人手不足による影響が表面化するとの指摘もある。

男性は入居が延期となって以降、月に数度は住めない「我が家」を見に足を運んできた。

訴訟でわだかまりがどこまで解けるのかは分からないが「自ら選んだ生涯を過ごす場所。納得して新生活を送りたい」と望んでいる。

<『まさか私がクビですか? ── なぜか裁判沙汰になった人たちの告白』より>

※本稿は、『まさか私がクビですか? ── なぜか裁判沙汰になった人たちの告白』(日経BP)の一部を再編集したものです。


まさか私がクビですか? ── なぜか裁判沙汰になった人たちの告白』(著:日本経済新聞「揺れた天秤」取材班/日経BP)

私たちの日常は意外に怖い。身につまされて学びになるリーガル・ノンフィクション。

日本経済新聞電子版の人気連載を書籍化。