睡眠アプリで調べてみると
ずっとこうだったのだ。特に問題は生じなかった。質の悪い睡眠を凌駕するだけの体力があったから。で、ついにそれがなくなった。ちゃんと寝ないと翌日が使い物にならない。日中の眠さがハンパない。睡眠アプリで調べてみると、やはり質の良い睡眠がとれているとは言えなかった。そりゃそうだ。人間の睡眠には90分周期のレム睡眠とノンレム睡眠というのがあるらしく、切り替わりのタイミングで目が覚めてしまうのかも。
体の疲労回復だけでなく、脳の健康にも睡眠が必要だと言われる時代になった。眠りの質を向上させる寝具やサプリは数多存在する。つまり、多くの人が満足に眠れていない。仲間は大勢いる。同時に、睡眠はもはやビジネスだ。
日中の過ごし方も良質な睡眠に影響すると聞き、自律神経を整えるアプリも購入してみた。交感神経と副交感神経のバランスが測れるとあったので試してみると悪い予感は的中し、寝る時間になっても交感神経が過度に優位な状態が続いていた。「いまは良い睡眠をとる準備ができていません」なんて言わないでよ。じゃあいつ寝ればいいのよ。お勧めされた瞑想やストレッチをやってはみたが、やはり1時間半ごとに目が覚めてしまうことに変わりはなかった。
日中に極端な眠気が襲ってくるのは更年期のせいもあるだろうが、本来は夜に切り替わるはずの副交感神経が日中に優位になってしまっているのかもしれない。そう思って測ってみたら、日中は日中で交感神経がバッチリ優位だった。今度はアプリに「いい調子ですね!」なんて言われてしまった。いや、そうでもないんだけど。
私が美の巨匠として崇める田中みな実さんは、良質な睡眠をとるためだけに生活している。
今度、話を聞いてみようか。いや、ダメなことばかりしていると怒られるのが関の山だろう。この原稿を書いているのは深夜1時45分。私の副交感神経は、ずっと家出したままだ。
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きのうまでの「普通」を急にアップデートするのは難しいし、ポンコツなわれわれはどうしたって失敗もする。変わらぬ偏見にゲンナリすることも、無力感にさいなまれる夜もあるけれど、「まあ、いいか」と思える強さも身についた。明日の私に勇気をくれる、ごほうびエッセイ。