「人のいろいろな面が「発言小町」のなかで新陳代謝し続けているから、みんなに読まれるんじゃないかなと思います」(スーさん)

小坂 よく「発言小町」で、「これって私が間違っているんでしょうか?」という問いかけがあるんですけど、それって結局、今現在の常識と自分がズレていないかを「発言小町」を通して確認しているのかなと。

三浦 常識というのは時代とともに変わりますから、『婦人公論』でも、“今どきのマナー”“人づきあいの新常識”といった特集がウケる。女性には世間の基本と照らしあわせて、「これでいいんだよね?」と確認したい欲求があるのでしょう。

マナーや服装の先生が「今やこれがもう常識なんですよ」と教えるわけですが、「発言小町」の場合は、いろんな人がいろんな意見を言い合う。世の中のリアルな意見の集合体から多数派が見えてくるのが、掲示板のよさなんでしょうね。

スー 「小町拝見」でも取り上げたのですが、専業主夫について、どう思いますか?のトピックもそういう投げかけでしたよね。

小坂 『日本でいま専業主夫っている?』と問う2015年のトピックです。スーさんには、「発言小町」のトピックについて考察していただく「小町拝見」というコラム(読売新聞夕刊、読売新聞オンラインに掲載)を15年から19年にわたって書いていただきました。

 

「横ですが」から話が広がっていくのも魅力

三浦 スーさんはいつもどういう観点でトピックを選んでいたのですか?

スー 私はどうしても、男女の性別による役割だったり、働き方だったり、そういうところに興味がいきがちですね。価値観や常識の変化にどう対応していくか。

三浦 『婦人公論』の読者手記やアンケートでも、「夫が定年した後も妻は変わらずにパートを続けている。それなのに夫は家事をせず、仕事で疲れて帰ってきた妻に『オレの飯は?』とのたまう」という嘆き節、多いんです。夫の定年後に役割分担が上手くいくといいのですが、大抵、夫のほうは「飯を作るのは俺の仕事じゃねぇ」という感じになるという……。

スー 『専業主夫について、どう思いますか?』を取り上げたときから5年近く経っているものの、世の中はそんなに変わってないなとも思っていて。ガラッとは変わらないけれど少しずつ変わっていって、もっと時間が経てば「だいぶ遠くまで来たな」ってなるとは思うんですが。

小坂 わりと直近のトピックで、夫の転勤についていきたくないっていうものもありました。

スー みなさんの反応はどんな感じなのですか?

小坂 ちょっと炎上気味で……。なぜかというと、トピ主(トピックを書いた人)の女性が専業主婦だから、ということのようです。トピ主は都会育ちだそうで、「地方での生活は耐えられそうにない。夫に単身赴任してもらう方法はないか」と。それに対して「専業主婦なら、夫について行くべき」といったレス(レスポンス)が多く寄せられているわけです。

三浦 「単身赴任=専業主婦の仕事放棄」だと書かれていましたね。

小坂 そんななかでも、転勤についていった経験のある女性たちから「3年は我慢したものの、身体を壊し、心はボロボロ、うつ状態になり、不眠、激痩せ、円形脱毛、散々でした」「慣れない土地、子供達の友達関係、教育問題、私自身の仕事も辞めて折角のキャリアも台無し」という体験談もチラホラあって。

三浦 それは長年『婦人公論』にも寄せられてきた妻たちの心情です。夫の転勤について行って、友人もいない土地でうつになった人も。

『これでもいいのだ』ジェーン・スー著

スー 『これでもいいのだ』(『婦人公論』で連載したコラムなどをまとめたスーさんの新刊本)に書いた〈選択的おひとり様マザー〉の出現がこんなに早いとはというエピソードですが、私の友人はフランス人の夫の転勤でインド洋に浮かぶレユニオン島について行っています。はたから見ればうらやましいと感じることも、当人にとってはそうとも言い切れないこともあるんだろうな、と思ったりして。

小坂 なるほど。先のトピックも、これだけたくさんの人がレスを書き込んでいますから、トピ主にとって嫌な意見もたくさんあるだろうと思います。でも、だからこそ「そんな事を考える人がいるんだ」という発見もあったりしますよね。突然、民法を引用して苦言を呈してくる人もいますからね。(笑)

スー 匿名で書ける場には、どうしても意地の悪い人が出てきてしまうものですよね。自分が投げかけられて不快だった言葉を人に投げかける人もいるだろうし、リベラルな人が増えた現代だからこそ昔の価値観をぶつけたがる人もいますし。

三浦 「かつてはこうだった」と言いたがる人はいつの時代も多いですから。