ここで正解を貰いたいわけじゃない
三浦 紙媒体である『婦人公論』でも読者手記などの投稿記事は人気ですが、一方通行。「発言小町」のような「双方向」のメディアではなかったわけです。ですが、ウェブメディア「婦人公論.jp」に本誌の記事を転載するようになったら、いろいろなリアクションをいただけるようになりました。
「読者ノンフィクション」という読者が寄せた投稿の中から受賞作品を選ぶ企画で、2019年末に受賞した『男社会で揉まれてきた私が…高齢出産で授かった2人の息子の育児に降参です!』という作品をWEBに転載したところ、Yahoo!のアクセスランキングの上位に入り、ものすごい数のコメントがつきまして。プロの書き手ではない一般の方の巧みな文章やユーモアをみんなが読んで面白がるWEBはすごく自由だなと思いましたね。スーさんのおっしゃった「駄トピこそ面白い」みたいな。
スー コメントのやりとりって、1つのテーマでみんなで大喜利をやる雰囲気になっていく。この『スキニーはくと岡っ引き(駄)』トピックも、本当にどうでもいいっていうネタです(笑)。でも、この感じはすごくわかる。
小坂 駄トピではないけれど、お姑さんへのグチを愉快に紹介する『お義母さま、それはもうネタですか?(愚痴)』とかも、もしかしたらすごく苦しい体験かもしれないけれど、うまく自分でジョークを交えて吐き出しちゃう感じがいいですよね。
あと、育児中のつらい気持ちをプラスに変えた『毎日イライラ子育てが一転、ニコニコ笑顔になりました』もそうでした。「子どもを面白がらせることに命かけている」という関根勤さんの子育て論をテレビで観て影響を受けたトピ主が、「子どもを笑わせてあげよう」ということを考えるようになったら、つらいだけだった子育てを楽しめるようになったという話。煮詰まった状態の人が気持ちを切り替えていく姿には共感が集まります。
三浦 はい。姑へのグチが芸になっているトピック、私も大笑いしました。関根さんの「笑わせる子育て」は当時けっこう話題になりましたが、それをきっかけにトピ主さんの苦しい子育ての現実がラクになっていくディテールとともに、レスが展開していくところに面白さがありますよね。
小坂 海外でひとりで子育てをしている方から、「『発言小町』を読んで励まされました」とお礼を言われたことがあるんですよ。書き込む方たちは直接の知り合いじゃないけど、場を共有する、悩みに寄り添ってくれる誰かがいるっていうのはすごく貴重なんだな、と思いました。
スー 「私だけじゃない」というのがキーワードですよね。「不幸なのは、私ひとりだけなんじゃないか?」「なんで私がこんな目に……」と思って検索すると、「発言小町」に同じような悩みが腐るほど出てくる(笑)。「なるほど、私だけではない」という意味で共感もするし、少し冷静にもなれる。若干悲劇のヒロインになっているところに「猛者は沢山いる」「よくある話なんだ」って、よい意味で冷水をぶっかけられるってこともあるでしょうし。
三浦 まさに『婦人公論』もそういうお悩みが詰まっていますよ。過酷な体験を綴った読者手記を読んで、「私よりもつらい立場にいる人が頑張っている」とエネルギーをもらえたりも。やっぱり女の人は共感とか連帯感とかが……。
スー 好きなんでしょうね、すごく。安心材料になるんでしょう。
小坂 そして、「ここで正解をもらいたいわけじゃない」という部分もある。だから「発言小町」はお悩み相談の場というよりは、モヤモヤを晴らすとか、そういうふうに使われているのかなって思います。
スー 気兼ねなく自分の感情を書けるところ、ですかね。「NewsPicks(ビジネスパーソンがメインユーザーの経済メディア)」とは、かなり違うんじゃないかな。男性がメインユーザーだと、エビデンスをもとに自分の分析を発表する場になりがちだと感じます。
小坂 あはは(笑)。おっしゃる通り。
スー そういう力比べをしなくて済むというか。向こうは向こうで大変なんでしょうが。
小坂 ちなみに年末年始は、みんな「家族問題」のトピックばっかり見るんですよ。
スー そうですよね。義実家に帰った人たちの。
小坂 異様にそこが盛り上がる。
スー 上がるでしょ。(笑)
三浦 はい。私もこの年末、夫の実家で「発言小町」を熟読して共感していました。「ああ、私だけじゃないんだ!」って(笑)。「婦人公論.jp」でも年末には義実家ネタを配信して、とても読まれています。なんせ100年前から姑のグチを吐き出していただいていますから。(笑)
〈後編につづく〉