演劇ってこういうものか

そして文学座を目指すきっかけとなるのが早稲田大学演劇科の学生時代。文学座公演、シェイクスピアの『ジュリアス・シーザー』(61年)を観たことだとか。

――シーザーが北村和夫さんでブルータスが小池朝雄さん。キャシアスが芥川比呂志さん、お元気だったほぼ最後の舞台ですね。素晴らしかったです。

アントニーは仲谷昇さんで、いい男でした。黒澤映画なんかだとものすごくいい役の加藤武さんが、舞台では一市民で出てるんで、演劇ってこういうものかと思いましたね。

それで、大学の教授がジロドゥやベケットの翻訳で有名な安堂信也さんで、文学座の文芸部にいらしたんです。卒業間近に「先生、僕役者になれますかね」って言ったら、研究室に連れていかれて、「このテープ聞いてみろ」って。

聞くと、ジェラール・フィリップと女優がものすごく言い争っている様子。「これどんなシーンだと思う?」「何か議論してるんですか?」「ラブシーンだよ。舞台の演技って、こういうもんなんだよ」。

ところが先生、「俺はもう大学のほうが忙しくなって文学座の仕事はしないから」って。それで演出家の木村光一さんに紹介状を書いてくれて、文学座附属演劇研究所に入れたんです。

でも入ってみたら分裂騒動で多くの劇団員が退団した後だったので、あこがれの男優たちは北村和夫さんと加藤武さん以外、誰もいませんでしたね(笑)。文学座はピンチでしたけど、僕にとってはチャンスでした。

だからまぁ、第2の転機は文学座の『ジュリアス・シーザー』を観たことですね。