左から太地喜和子氏、杉村春子氏、矢吹寿子氏、小林さん(写真提供:文学座)

文学座研究所の選考試験は、ちょっと台詞を読まされただけ。強烈な安堂信也氏の紹介状のせいもあってすんなり合格。五期生となる。

――初舞台は木村光一演出で、ジョン・アーデンというイギリスの劇作家の『マスグレーヴ軍曹の踊り』。演じたのは竜騎兵一で、台詞は「動くな! 手を挙げろ!」の一つでした。

その四年後にはもう太地喜和子と『あわれ……』で主演してますから、文学座が手薄になったおかげですね。これも木村さんの演出で、この場は全裸って言われて、喜和子がどんどんやりだすからこっちも負けてられない、と思って。

喜和子は酒飲みで、寂しがり屋でしたね。地方公演なんかに行くと誰かの部屋が飲み場所になって、喜和子はタンクトップ一つで、胸がはだけて見えててもまったく平気でした。

そうそう、喜和子と旅公演で東京駅を出る時、若かった十八代目(中村)勘三郎(当時勘九郎)さんがホームまで送ってきたのをチラッと見かけたことがありましたよ。

長岡輝子さんにもずいぶん引き立てていただきました。研究生の時に長岡さんの授業があって、「あんた声がいいから詩を読みなさいよ」って、その頃YMCAで詩の朗読会やっていらして、宮澤賢治の詩とかを読まされたりしましたからね。

でも、75年にコリン・ヒギンズの『ハロルドとモード』って、老婦人と青年の恋物語、名女優が年を取るとやりたがる芝居ですね。そのモード役を長岡さんがやって、ハロルドは残念ながら僕じゃなくて西岡徳馬(当時西岡徳美)で、僕はベルナール警部の役。

モードおばさんをいじめるわけじゃないけど、ちょっと弾けたことを、まぁお行儀の悪い芝居をしたんですよ。そしたら「あなたは詩のわかる子だと思ってたのに、なんでそんな芝居をするの」って、長岡さんをひどくがっかりさせちゃったことがありました。

後編につづく

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